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フィルター準備中

 蘇芳高校は普通の高校である。


 昨今よくある、生徒の確保のために部活動に力を入れたり、進学率を上げたりという努力はしているが、特別有名だったり、問題児がいたり、などというようなことはない。

 さらにこの町が比較的穏やかな町だからか、生徒も和気あいあいとのんびりした気質のものが多い。


 そんな蘇芳高校の一クラス。この平凡な学校では有名人に値する生徒がいる一年二組で、放課後、何人かの生徒が残って貴重な青春の一コマを送っていた。


「雨宮さん、マジで可愛いよな~」

「この学校にも何人か綺麗な人いるけど、雨宮さんみたいに絵に描いたような美少女って珍しいよね」

「うんうん、少女マンガのヒロイン、って感じ!」


 話題は今日転校してきた雨宮結衣について。

 可愛らしい顔立ち、スタイルも良かった。さらに聞いた話によると成績も悪くないらしい。それでいてそんな長所を鼻にかけることなく気さくな性格。

 話しかけても喋りやすく、どこかお嬢様っぽい雰囲気はあるが本人は庶民だという。ということは、あの雰囲気は自然体だということだ。


「少女漫画のヒロインか~。ピッタリだよな!」

「何てったって、王道らしく時期外れの転校生!」

「顔が可愛くて性格もよし!」

「しかもその転校してきたクラスには……!」

「「「ヒーロー須田晃臣がいる!!」」」


 声をそろえて言い切った生徒達は『わっ!』と盛り上がった。


 そう、このクラスには新入生代表と学級委員長を務め、顔良し、頭良し、運動神経良し、性格良しのまさしく少女漫画のヒーローと言える青年がいるのだ。


「隣に並んだらほんっとお似合いだったよな!」

「戸惑う雨宮さんを安心させようと微笑む須田君!!」

「自己紹介の時に見つめあう二人の姿なんて、運命の出会いを見たかと思ったわ!」


 本来なら良いとこだらけの二人を妬ましいなどと思うのかもしれない。しかし、あれだけお似合いで完璧な二人を前にすると、それを間近で見られることが楽しくて仕方がない。


 貴重な青春の一ページ。自分達の傍で劇的なことが起こったって良いじゃないか、いや、むしろ起これ、とこの生徒達は思っていた。


「ねえ、もしかしたらこのクラスで、漫画みたいな、もしくはドラマみたいなこと起こったりするかもよ!」

「絶対起こるって! ヒーローとヒロインがそろってるんだぜ!」

「あとはライバル役なんかが出てきたらもうバッチリよね!」

「うわぁ、明日から学校来るの楽しみ!!」


 蘇芳高校は普通の学校である。

 そして、その生徒達もごく普通で、普通に学校を楽しみ、ちょっぴりスパイスを望んだりもするのだ。

 彼らはそのスパイスを味わうために、二人の男女を中心に据えた。


 少女漫画から出てきたかのようなヒーロー須田晃臣と、ヒロイン雨宮結衣。


 そんな二人が、同じころ、明日から学校に行きたくない、などと思っているとは露知らず。

 少女漫画な主役達がいると思い込んだ彼らは、少女漫画なフィルターを装着し、観劇の準備を万端に整えているのであった。


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