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プロローグ

四ヶ月の沈黙を破り、遂に姿を現した新作!


しかも一次創作!


作者が多忙のため、一話一話が短い&不定期ですが、どうか生温かい目で見守って下さい。よろしくお願いします。

「……これでよし、っと」


石室に女性の声が反響する。

声の主は声色に達成感を乗せ、満足そうに額の汗を拭った。

血の付いた(・・・・・)手で。


立ち上がって己の成果を確かめる彼女の名は、赤川(あかがわ)瑞姫(みずき)

某公立高校に通い、青春を謳歌しているはずの高校二年生である。


「さて、あとは詠唱をしてわたしの血を捧げるだけ……か」


瑞姫は古ぼけた本を(めく)りながらこの後の手順を確かめている。

彼女は一体何をしているのか。それは、彼女の足元に描かれている円形の陣を見ればおおよそ想像がつく。

一般的には魔法だの魔術だのと呼ばれている、科学と対を成す神秘。彼女はそれを為そうとしているのだ。


この光景はファンタジーであればなんら違和感の無い光景である。

そう、ファンタジー(・・・・・・)ならば。

断っておくが、彼女の住む世界は科学が蔓延(はびこ)る世界であり、魔法だの魔術だのといった言葉は使われなくなって久しい。

ほぼ全ての事象が科学によって解明されつつある世界。それが彼女の居る世界。


そして、赤川瑞姫は魔法使いでも魔術師でも魔女でもない。

知識はあれど、その身に魔力など欠片も無く、世界の法則を覆すほどの異能も有りはしない。


赤川瑞姫は学生であり、同時に10年に一人の逸材と持て囃されている小説家(・・・)だ。

彼女が紡ぐ幻想は、夢と希望に溢れた世界。

科学の発展に伴い、現実世界で淘汰されつつある奇跡。

それらに飢えた読者達が食い付くのは必然だったのかもしれない。


だがしかし、それは彼女に文才が無い事を物語っている、という訳ではない。

彼女の実力は想像性だけで決定付けられる訳ではない。


膨大と言えるほどの知識量。こと魔法、幻想、英雄譚に限れば、おそらく人類で最も多くの知識を持っているだろうと思われる。

そしてそれらを読み解くための言語の知識。

さらには魔法と科学の融合系である錬金術など、神秘に付随する技術も多く体得している。

それらはすべて"小説を書く"ためだけに収集された知識であり、現実を生きる上では全くと言って良いほど使えない知識である。

彼女が小説を書こうと決めた中学二年生から3年間で集めた知識量がこれだと言うのだから、10年に一人の逸材と褒め称える世間の気持ちも解らなくはない。


さて、話を戻そう。なぜ赤川瑞姫は魔法陣を描いているのか。

答えは至極単純。神秘が確かに存在するのか、その有無を確認するためである。


バカと天才は紙一重という言葉が彼女の在り様を素直に示していると言えよう。

「邪○眼」だの「エター○ルフォースブ○ザード」だのとほざいて、数年後に厨二病を発症するならまだ可愛い物である。

しかし彼女は違った。その知識の量と精度から、かつて神秘が存在したという事を完全に信じ切っているのだ。

現実と空想が入り混じり、己を奇跡の担い手と信じて疑わない彼女は、世間で言うところの「痛い子」という事になる。


さて、再び話を戻そう。

いかに神秘の知識を多く持つ瑞姫と言えど、その身一つで神秘を体現できる訳がない。

例えば魔導書、例えば魔具、例えば神秘を成すのに適した場所など、揃えるべき物は少なくない。


彼女は小説を本格的に書き始めるのと並行して、神秘を成すための準備に取り掛かった。

現存するが書物としての意味を殆ど為さなくなった魔導書を掻き集め、真鍮製の長杖(スタッフ)を自作し、ローブを編み、家の地下に石室を作り上げた。

相当金が掛かったが、小説の印税がこれでもかと入ってきているので、心配する必要は皆無だった。

そして今しがた描き終えた魔法陣を成している血は、つい先刻まで瑞姫に無垢な瞳を向けていた鶏の物である。


ここまで来れば、もはや女子高生の所業とは誰も思うまい。

今の彼女の所業を見る者がいれば、きっとこう言うだろう。


「あれは狂気に駆られた魔女だ! 彼女には魔女の魂が乗り移っているんだ!」


……と。

だが幸か不幸か、彼女を止める者は一人もいない。

両親は既に骨になっているし、兄弟は無く、親戚も姿を現していない。

今日は学校は休みなので教師や友人が心配して見に来てくれるなんて事も無い。

そもそも彼女の容姿は男ならば振り向かずには居られないほど可憐だと言うのに、何故か彼女に恋人はおろか、友人すら一人もいない。

だからこそ彼女が何の障害にも阻まれずに準備を進めて来れた訳なのだが。


瑞姫は陣の中心に小瓶を置いた。中には自分の血が入っている。

その後魔導書を手に持ち、目当てのページを開くと杖を持って詠唱を開始した。


「――――――」


何処の物とも知れぬ異国の言葉。だがしかし、数多くの異国語を習得している瑞姫にとって、読む事はおろか、発音すら児戯(じぎ)に等しい。


「――――――。」


(こな)れた発音で詠唱を終了させた瑞姫は、小瓶を杖の石突で割った。

血が飛び散り、魔法陣を汚していく。


「……………………」


室内が静寂で満たされる。これは嵐の前の静けさなのか。それとも失敗を憐れむ無音なのか。

瑞姫にとってはどちらでもいい。成功すれば御の字。

もし失敗しても他の術を試せばいい。


「ふう……やっぱり人の生き血じゃないとダメだったかなあ……」


しばらくしても反応は無く、失敗と判断した瑞姫が陣から動こうとした瞬間―――


「っ……!?」


突如、魔法陣が輝き出した。

まるで生命力を光で表したかのように、薄暗い石室が真紅の光で満たされていく。


「これは……!?」


さらに、本来なら発生するはずの無い烈風が吹き荒れ、室内の空気を掻き乱し始める。

空気の摩擦のためなのか、それとも陣から発生する物なのか、紅い稲光(いなびかり)が、バチバチと音を立てて発生し始めた。


「一体何が―――」


瑞姫が驚く暇も無く現象は強くなっていき、魔法陣が一際明るく光り、室内を紅く満たした。

その直後、役割を果たして満足したのか、魔法陣の輝きはすぐに失われて行き、不可思議な現象は収束し、石室内に再び静寂が戻った。人が消えたという事実を新たに付け加えて……。


そう。この日、或る一つの世界から、赤川瑞姫という名の存在が―――




















―――消失した。


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沢山来たら作者は歓喜の涙で溺れます(オイ

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