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今に唄う  作者: ミニー
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第二話:電車

あたしはボサボサの髪をかきながら、リビングに降りた。

高校に入学して一ヶ月とちょっと。

こんなに朝がつらいと思ったことはない。

一昨日も、昨日も……

いつもと変わらなかった。

机をみれば必ず何か書かれている。

トイレに行けば水をかけられる。

あたしの配ったプリントや配布物は汚そうに捨てられる。

廊下をとおればヤジがとぶ……

今じゃもう誰ひとりあたしの見方はいない。

こんな生活があと3年間も続くと思うと……

気が遠くなる……

「美月。あんた最近遅刻ぎみなんじゃない?さっさと行きなさいよ」

リビングで食器を洗っている母に言われた。

そう…

最近あたしは遅刻気味だ。

そんなの分かってる…

でも…

今日もまた一日が始まると思うとどうしても体が動かない。

母はあたしがイジめられてることを知らない。

お父さんも、おばあちゃんも、お姉ちゃんも……

皆知らない…

てか言ってない……

「うるさいな、黙ってよ」

━━中学時代に戻りたい。

また皆とバカしたい…

もうありえない話だけど……

「もう。友達が待ってるわよ」

……━━言ってないんじゃない……

言えないんだ……

誰が言えるだろう……

自分の親に……

━━お腹を痛めて産んでくれた人に……

「友達なんかいないよ…」

━━いじめられてる、だなんて……

誰が言えるとゆうのだろう……

「え?」

「何でもない。じゃあ行ってくる」

あたしはカバンをもって、背を向けた。

━━気づくわけもない…

「なんなのよもう。行ってらっしゃい」

━行ってらっしゃい……

あたしが今どこに行くかわかる…?

楽しい楽しい学校じゃないんだよ……

地獄だよ……

そんな明るく送り出さないで……

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○


「ねぇゆかー。今日はあいつどぉすんの?」

美紀(みき)はゆかと一番仲のいいツレ。

マスカラを塗る手つきは慣れたもんだ。

丁寧にすばやく塗りあげていく。

「あーっ!美紀それあたしのマスカラじゃん。

あいつって浅井のこと?」

ゆかは化粧に夢中の美紀にいった。

トイレの鏡を前に、2人でたむろしていた。

ゆかもポーチに入っていたチークを取り出し始める。

淡いピンクカラーのやつだった。

「ごめーん。借りちった。

うん、今日さぁあたしあいつにメール送ったんだよね」

チークを塗るゆかを横手に美紀が笑う。

ばっちり整ったまつげが目を余計大きく見せた。

「はい、ありがと」

一言つけくわえて、マスカラをゆかのポーチにいれた。

ゆかは言葉を発するかわりに頷いた。

美紀は水道口の手荒い場にもたれかかった。

「浅井にメール?なんて送ったん?」

ゆかはパチンッ、とチークケースを閉じた。

白い肌に淡い色艶がマッチして、なんとも色っぽい。

美紀はポケットに手をつっこんで携帯をつかんだ。

そしてスッと抜き取ると、画面を広げボタンをつつく。

黙って美紀をみつめるゆかに、美紀の手がとまる。

「これ」

そう言って携帯画面をゆかに見せた。

ゆかの目が下にいくにつれて、口元に笑みが浮かぶ。

そう。

美紀が見せたメールは今朝、美月に届いたあのメールだった……

「楽しみにしててねってするわけねーよな」

ゆかはふきだし笑いこむ。

「ほら、6組にいんじゃん。浅井と仲がよかった奴……

名前なんだっけ…」

美紀はゆかに求めるように言葉をつぶやく。

ゆかも相づちをうって、美紀が何を言いたいのか理解した。

「加古……だったけ?そいつからアド聞いた」

美紀はあいまいな記憶を適当に言葉にした。

ゆかは鏡に背をむけて、

「あぁ……大下とかゆう奴ね」

フッと暗い笑みを浮かべた。

ゆかの目を気にして最近自分の周りをうろついてる奴。

ゆかはすぐに分かった。

「そうそう!でも笑っちゃうよね、ゆかが浅井嫌ったら皆が離れてくんだもん」

美紀の綺麗に整った顔が歪む。

ゆかも、鼻で笑った。

「…あいつ、すげー目障りなんだよ」

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●


「……ギリギリ間に合うかな」

その時、美月は駅のホームにいた。

いつも通りの時間に電車にのる。

今の時間じゃあほぼ同じ学校の子には会わない。

昔はいつも加古達とのってたいた……

フと、そんなことがよぎる。

《えー…コチラ●●前。●●前。間もなく停車いたします。》

駅のアナウンスがホームに響く。

俯いていた美月の前にゆっくりと電車が止まる。

「行きたくねー…」

ボソッとつぶやいた。

でもそれはアナウンスと込み合いの音で簡単にかきけされた。

重い足を入り口にかけた。

ドン、と美月にぶつかりながら後ろから次々に人が乗り込んでくる。

その波におされるようにして身をいれた。

《扉が閉まります》

その声とともに美月はため息をついた。

これから向かう場所を思うとつらい。

(つかまじさー、今思ったんだけどよ)

ドカッと大きく椅子に座る。

微妙な揺れが美月の心を揺らす。

(あたしほんとに恨まれるようなことしてないし。

ただゆかの好きな奴があたしのこと好きだったってだけじゃんッ)

次から次に頭をよぎっていく疑問。

(しかもあたしソイツが誰かも分かんないし、つき合うかだってわかんねぇのにッ…

すっげぇムカつく……

あいつのせいであたしの高校生活むちゃくちゃ……

だいたい何?皆、ちょっと学年の中心的存在があたしのこと嫌ったからって。

加古も……くみも……ゆなも……

皆最悪……

小学生じゃあるまいし……)

いじめられてる自分を恥ずかしく、情けなく思った。

そんなささいなことで喧嘩をうられ、皆も離れていった。

所詮自分はそんだけどうでもいい人間なんだと教えられた感じだった。

それでもまだイジメは始まったばかり……

これからもっとひどくなっていくかもしれない……

少しの不安と絶望…

(ちくしょッ…)

考えるのは頭だけで、何もできない自分が余計みじめだった。

考えれば考えるほど情けなくて怖くて……

また涙が浮かんだ……

(やべ…)

美月は浮かんだ涙をふこうと目元に手をもっていく…



「ぎゃはははは!!まじでぇ?」

突然の拍子ぬけした声だった。

あまりのデカさに驚いた。

美月は自然と声のした方に目を向ける。

そこにはスウェット姿の男が3人と女の子が1人いた。

歳は多分美月とそう変わらない。

三人の男はいかにもヤンチャと言った感じだった。

赤髪、緑髪、金パ。

並んで見ると気迫がある。

その3人組は空いている席に座らず、地べたにドンと座りこんでいた。

美月の目がもう一人の女の子に向けられた。

髪は金茶と言った感じで何本か赤と黒のメッシュがいれられている。

化粧で塗りたくられたような目がイカツイ。

その子は静かに笑っているだけだった。

一言で言えばギャル男とギャル子だった。

(…ゆかに似てやがる)

美月はサッと目をそらして、イヤなことを思い出した。

あんなにアイラインひいてなにが面白いんだか。

美月もそれなりに化粧しているが、ナチュラルで大きな黒い瞳によく合っていた。

さっきまで気にすることはなかったが、一度気づいてしまえば、もう終わり。

でかい笑い声と話し声が美月の頭をぶん殴る。

その笑い声が美月をいじめる奴らの雄叫びを思わせた。

(…うぜえ)

美月は窓の外に視線をうつした。

無造作にたちならぶビル。

美月の目にうつっては、また別のものに変わる。

「えー?ゆかぁ?」


━フと…

そんな声が聞こえた。

━━━ドクンッ

(え…?)

あまりに一瞬で美月は固まってしまった。

ゆか…

その言葉が何度も繰り返された。

どこかの会話だろうか。

美月の心臓が痛くなる。

(ゆかって…あのゆか……?)


その声の発生者は、さっきのスウェット4人組だった。

女が携帯電話をにぎって耳にあてている。

(電話か…)

ゆかなんて名前の女はいっぱいいる。

あの女の電話相手の名前がゆかだからだって別に不自然じゃない。

━ドクン

でも胸さわぎがする。

逃げ出したい。

もしかしてゆかはここの近くにいる…?

それともここにくる…?

それとも……

「えー……美月?誰それ」

…金属バットで、体全身をたたかれた気分だった。

こんな偶然があるだろうか…

たまたま乗った電車に、スウェットの不良4人がいる。

その中の女の1人が電話をしている。

相手はゆかとゆう名前の女。

そしてその女との会話は美月という人物のことなのだ。

偶然だ…

偶然が重なっているだけだ……



「緑羽高の制服?そんなん着てるやついる?」


3人の男にそう聞いた。

男達は表情も変えずあたりをキョロキョロしだした。

…そうそう……

たとえその会話の人物があたしと同じ高校だったとしても……

━━━え……?

緑羽…???

あたしはとっさに自分の制服をみた。

緑羽高校とはあたしの行ってる高校。

そして名前は浅井美月。

ゆかという名前の女が始まりで最悪な高校生活をおくってる。

そしてあたしの目の前にいる4人はゆか系な奴とつるんでそうなガラの悪い連中。

人が少し少なくなった今。

もうあの電話してる奴の女の声しか耳に入らない。

電話をしてる金パの女が3人の男に確認をとって30秒。

あたしはとっさにシートに隠れた。

━━間違いない…

あいつらはゆかのツレだ……

ゆかは毎回あたしが遅刻ギリギリで学校にくることを知ってる。

この電車に乗ることも……

あたしは体がだんだんブルッてきた。

冷や汗がこもる。

「ちょっとあたしそいつがいるか車両探してくるから。しばらくゆかの相手してて」

金パの女はそう言うともっていた携帯をポイッと赤髪の男に投げた。

男は相づちをうった。

すぐに

「もしもし?」

とゆかとの会話が始まった。

あたしは絶望した。

確かに『探してくる』と言った。

当たり前に見つかる。

何されるんだろう…

集団リンチ…?

ううん……

━ゆかのことだ。

もっとひどいことを要求してそうだ。

あたしは吐き気がしてきた。

何であたしがこんな目に…

ペタッペタッと女のはいているスリッパが地面につく。

近づいてきてる…

━━何したってゆうの、あたしが……

体で怖さでブルッている。

家族の顔が脳裏に浮かんだ。

一瞬だけ死んだ方がマシだって思った……



━━弱肉強食のこの世界。

あたしは今ピンチにたっている。

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