5話目 過去②
怜央君は東大に合格した。
しかも、理Ⅲだ。
でも、当然かもしれない。
学年の8割が現役で東大に受かる学校の中でいつも10番以内に入っていたのだから。
それに、怜央君の家はお医者さんだし、怜央君は後を継がなくてはいけなかったから。
そのころだった。
怜央君に、彼女がいると知ったのは。
最初は、私が怜央君の部屋にいる時もメールをしていたこと。
そして、電話で優しそうに話す怜央君の声を聞いてしまったこと。
決定打は、家の近くの公道で、怜央君と女の人がキスをしているのを見てしまったことだ。
遠目からでも、怜央君だと分かった。
私は、驚いてその場から動けなかった。
幸い、2人から気付かれなかったものの、私は心の中がもやもやして、その日は怜央君の家に行くことができなかった。
次の日、放課後怜央君の家に行くと、怜央君は帰っていなかった。
5時、6時、7時・・・8時になってようやく帰ってきた怜央君は、私を見て驚いたようだった。
「実樹、どうかしたのか?こんなに遅い時間までいるとは思わなかったよ。」
「・・・彼女?」
怜央君は、え、と聞きなおした。
自分から黒い感情が出て、止まらない。
「彼女?」
「え、ああ。そうだよ。」
ずいぶん軽い感じで言う。
私の心は真っ黒だった。
結婚してくれるって言ったのに。ずっと、大好きだったのに。
毎日家に来たのに。怜央君に追い付きたくて、苦手な勉強を頑張って慶林館に入ったのに。
でも、そんなことを直接言ったら怜央君に嫌われてしまうと思ったので、私は無理やり笑顔を作った。
「そっか~、怜央君格好いいもんね。もてる、よね。」
客観的に考えると、見た目もよく、家もお医者さんで、それなりに優しく、頭もいいなんて好条件すぎる。
「でもね、私も怜央君好きだよ!これから、アタックする!私、怜央君のこと大好きだから!」
そう言うと、怜央君はちょっと困ったように笑った。
迷惑かもしれない。
でも、出来たばかりの彼女より私の方がずっと怜央君を分かっているし、酷いけどその彼女とはきっとすぐに別れてしまうと思っていた。
「ありがとう。」
その日から、私の、怜央君へのアタックは始まった。