3話目 出会い
学校が終わって、塾に向かう。
私の塾は新宿にある、小さなホーム塾だ。
ひと学年15人程度と少ないが、その分先生たちの面倒見も良く、生徒たちの仲も良い。
でも、私は入ったばかりで正直、あまり馴染めていないというのが現状だった。
「お疲れ~」
「難しかったね~化学の、あの酸化還元がさ~・・・」
授業が終わり、自習室に行く。
みんなは帰ったり、途中でどこかに寄ったり、まだ授業があったり、さまざまだ。
自習室に入ると、私と同じように自習していこうとしていく男子が一人いた。
同じクラスの、寿々木君。
男女比半々のクラスで、一人だけ異質的に格好良かった。
今時の茶色の髪の毛やすらっと長い脚が目を引いて、この前他の子が、格好いいよねというのを聞いてしまった。
あまり広くない自習室で、あまり知らない男子と二人きりになるなんて、女子校5年目の私には少々気まずい感じがする。
私は、入口付近の机に問題集とノート、そして筆箱を置いて、自習を始めた。
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「あ、8時だ。」
その声に壁に掛けてある時計を見ると、8時を5分ほど過ぎている。
気付くと、寿々木君が私を見ている。
「・・・?あの・・・」
「あ、ごめん。つい。」
少し照れた感じの笑顔が少し幼くて、かわいらしい。
かわいらしいなんて、男の子に使う言葉じゃないかな。
私はおかしくなって、くすっと笑ってしまった。
すると、驚いたように寿々木君が私を見る。
「どうしたの?」
「いや、栗河さんが笑ったから・・・」
笑ったくらいでそんなに驚くことないのに。
学校では私は活発キャラだし、毎日笑っている。
塾で笑わないのは、いつも一人だからだ。
「さすがに一人のときに笑っていたら、変な子でしょう?」
「まぁね。でも、栗河さん、慶林館女子だろ?お嬢様学校だから、さ。」
お嬢様だったら笑わないのだろうか?
大体、慶林館はお嬢様学校でも何でもない。
ただ、セーラー服が白を基調としていて、スカート丈がみんな長く、髪の毛を染めている人がいないから、そう思い込まれているだけだ。
夏にはみんなスカートをバタバタするし、着替えだって丸見えでも気にしないし、全然お嬢様なんかじゃない。
黙り込んだ私を見て、起こったと勘違いしたのか、寿々木君が慌てる。
「あ、ごめん、気を悪くした?俺、みんなにいつも言われるんだよ、空気読めって。」
どうやら寿々木君はいじられキャラらしい。
見た目とのギャップに、こぼれた笑いをどう受け止めたのか、楽しい雰囲気になった私たちは、そのあとも少しお話をしたのだった。