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前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜  作者: オカノヒカル


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第8話 兄、ざまぁの第一報を受け取る

 ロズベル本星カレド

 中心都市に建つ領主府は、遠目にはまだ立派に見えた。


 高い塔と磨かれた正門。大広間には、鉱山資源で栄えた時代から残る家紋が掲げられている。


 外壁の補修は遅れ、庭園の噴水は半分止まっていた。廊下の照明が明るいのは来客用の区画だけで、使用人の数も最盛期よりずいぶん減っている。


 その領主府の執務室で、ガレス・ロズベルは報告書を見下ろしていた。


 大きな机と立派な椅子。壁には先代領主の肖像がかかっている。

 ガレスは、新領主の威厳を示すため、その肖像を背にして座っていた。


「……誤報だろう」


 ガレスが低く言った。


 通信官の返事は、一拍遅れた。


「複数の監視記録と、《アーク・ロズベル》の戦闘結果要約が一致しております」

「なら、海賊が弱かっただけだ。第二艦隊の実力ではない」

「しかし、敵旗艦の戦闘不能化は記録に残っております」


 通信官の声は小さかった。

 ガレスと目を合わせず、表示板へ視線を落としている。


 その態度が気に入らなかった。


「報告が誇張されている」

「自動ログです」

「なら、その自動ログが破損している」

「複数系統で一致しております」


 ガレスの指が、机の縁を叩いた。

 こつ、こつ、と乾いた音が続く。


 なぜ沈まなかった。


 その言葉が喉まで出かかったが、飲み込んだ。

 領主として、声にしてはならない。


 弟を辺境の死地に送ったのは、軍務上の配置転換でなければならない。

 厄介払いでも、見殺しでもない。少なくとも、公式にはそういうことになっている。


 ガレスは息を整えた。


「第二艦隊も、ロズベル領軍の一部だ」


 文官たちが、わずかに顔を上げる。


「領主である私の統率下にある艦隊だ。その戦果は、領主府の防衛政策の成果として扱うべきだろう」


 文官たちはすぐに視線を伏せた。

 誰も、先ほどまでの言葉を指摘しなかった。


 そのとき、執務室の隅で静かに立っていた男が、柔らかく微笑んだ。


「領主閣下。まさに、その通りかと」


 男の名は、ルシアン・ヴェイル。

 外部資本側の窓口として領主府へ出入りする、再開発顧問だった。


 柔らかな茶色の髪に、細い眼鏡。高価そうな服を着ているが、ガレスの装飾ほど目立ちはしない。

 外部資本の実務家らしく、身なりに隙はなかった。眼鏡越しの目は冷たい。


 ガレスはルシアンを見る。


「貴様は、これを朗報だと言うのか」

「はい」


 ルシアンはためらわずに答えた。


「第二艦隊が、少なくとも一度は海賊に勝てる戦力であると示されたのです。これは、領主閣下にとって大きな材料になります」

「材料だと?」

「ええ。辺境宙域の治安回復を進める材料です」


 ルシアンは、机の上に小さな星図を投影した。

 ロズベル領の外縁。

 旧鉱山帯。

 廃棄ドック群。


 長く使われていない補給施設が、赤や灰色の点で示されている。


 ガレスは眉をひそめた。


「旧鉱山帯か」

「かつてロズベル領の財政を支えた場所です。現在は海賊、密輸業者、無許可採掘者の温床になっていると聞いております」

「知っている」

「であれば、治安回復は急務でしょう」


 ルシアンの声は、どこまでも穏やかだった。


「第二艦隊が動けるのであれば、危険宙域の掃討に回すべきです。海賊残党を追跡し、旧鉱山帯および廃棄ドック周辺の安全を確認する。そうすれば、再開発交渉も進めやすくなります」


 ガレスは黙った。


 再開発が進み、古い鉱山が再び金を生めば、領主としての評価は上がる。

 中央への報告にも使える。債務交渉にも効く。


 その治安回復を第二艦隊に押しつけられるなら、補給艦を出すより安く済む。

 そのうえ、レオンをまた危険宙域へ送れる。


 ガレスは報告書を見る。


 第二艦隊は勝った。

 ならば、すぐ次の任務を与えてもおかしくはない。


 次に失敗すれば、レオンの無能を正式な記録として残せる。任務を続けられなくなれば、更迭する理由にもなる。

 それでも戦果を上げたなら、ロズベル領軍の成果として利用すればいい。


「しかし、補給はどうする」


 ガレスは言った。


「第二艦隊に正規補給を出す余裕はない。燃料も部品も、医療品もだ」


 領軍の在庫が苦しいのは事実だった。

 だが、わずかな余裕まで第二艦隊に回す気もなかった。


 ルシアンはわずかに首を傾ける。


「幸い、海賊船を拿捕しているのでしょう」


 ガレスの目が細くなった。


「続けろ」

「拿捕船の物資を接収すれば、短期補給には使えます。海賊が積んでいた合成食、水、弾薬、修理材。すべて領内治安維持活動に伴う押収物として処理できます」


 通信官が小さく息を呑んだ。

 文官の一人が何か言いたげにしたが、ガレスが視線を向けると黙った。


 ルシアンは構わず続ける。


「さらに、旧鉱山帯周辺には廃棄補給ステーションが残っています。稼働していなくとも、再利用可能資材を確認する意味はあります。第二艦隊に、掃討任務と同時に調査させればよろしいでしょう」

「補給艦を出さずに済むか」

「少なくとも、今すぐ出す必要はありません」

「休息は?」

「海賊残党が逃走中である以上、追撃の機を逃すべきではありません」


 ルシアンは、そこで少しだけ微笑みを深めた。


「領主閣下の迅速な判断として、十分に説明がつきます」


 ガレスは椅子に深く座り直した。


 迅速な判断。

 領主の統率。

 治安回復。

 再開発。


 中央府へ並べる言葉には困らない。


「第二艦隊は、まだ使えるということか」

「はい。少なくとも、使い道はございます」

「ならば」


 ガレスは表示板を引き寄せた。


「使ってやる」


 文官の一人が、恐る恐る口を開く。


「領主閣下。第二艦隊は戦闘直後です。主砲の損耗や負傷者の状況も未確認で――」

「海賊を撃退したのだろう」


 ガレスの声が冷たくなる。


「ならば、追撃と掃討は当然だ。辺境宙域の治安維持は、第二艦隊の任務である」

「しかし、正規補給なしでは」

「拿捕船の物資がある」

「十分とは限りません」

「現地司令官の判断に任せる」


 現地判断としておけば、成功は領主府の決断、失敗は現場の判断ミスにできる。


「命令文を作成しろ」


 文官が姿勢を正す。


「第二艦隊に、海賊残党の掃討継続を命じる。逃走艦の航路を追跡し、旧鉱山帯および廃棄ドック周辺宙域の治安状況を確認」

「はい」

「拿捕した海賊船は武装解除し、乗員を拘束。積載物資は現地補給資産として暫定使用を認める。正式な帰属は任務終了後に審査する」


 文官の指が一瞬止まった。


「何だ」

「いえ」


 文官はすぐに入力を再開した。


「旧式廃棄補給ステーションを発見した場合、任務遂行上必要な範囲で、一時的な再稼働を認める」


 ガレスは続ける。


「正規補給については、本星側の再編後、追って通達する」


 ルシアンが静かにうなずいた。


「よろしいかと」

「任務完了まで、現地司令官の判断により行動せよ」


 ガレスは命令文の草案を確認した。


 文面は通常の治安維持任務だが、補給も休養も与えず危険宙域へ進ませる内容に変わりはない。


 署名欄に指を置く。

 家紋認証が走り、ロズベル領軍司令部命令として文書が確定した。


「これでよい」


 ルシアンが恭しく頭を下げる。


「領主閣下のご判断は、極めて現実的です」


 ガレスは満足げに鼻を鳴らした。


「当然だ。領主とは、現実を見なければならん」

「まことに」


 ルシアンは柔らかく答える。


 頭を下げたルシアンの視線が、星図上の旧式補給ステーションの識別番号に一瞬止まった。

 ガレスはすでに、中央府へ提出する報告文へ意識を移している。


「星系連合中央府へ提出する領主府所見も整えろ」


 ガレスが言った。

 ロズベル領は辺境自治領とはいえ、名目上は星系連合に属している。海賊撃退のような軍事行動は、領内報告だけでなく、中央府にも上げなければならない。


「どのように記載いたしますか」


 文官が顔を上げる。


「新領主ガレス・ロズベルの統率下で、ロズベル領軍が辺境防衛に成功した、と書け」

「戦闘指揮官名は自動記録に残ります」

「消せとは言っていない。領主府の功績を先に書け」


 ガレスの目が細くなり、文官は深く頭を下げた。


「かしこまりました」


 ガレスは、机の上の報告書をもう一度見た。弟の名は、まだそこにある。


 不愉快だった。


 だが、すぐに消えるかもしれない。


 旧鉱山帯は危険だ。

 海賊残党もいる。

 廃棄施設など、まともに使えるはずがない。


 第二艦隊の勝利が偶然なら、次は続かない。


 仮に続いたとしても、その戦果はロズベル領軍のものだ。


 ガレスは、ようやく笑った。


「レオン」


 報告書にある弟の名を見下ろす。


「せいぜい役に立て」


**


『本星司令部より、追加任務命令を受信』


 ノアの声に、俺は司令官席から顔を上げた。


「早いな」

「早すぎます」


 副官席にいたセラが、補給表を閉じた。


 主砲の冷却も、投降艦の武装解除も終わっていない。食堂で飯を食った兵たちは、交代で仮眠に入ったばかりだ。

 セラの端末には、食料、水、医療品、冷却材、補修材、弾薬の残量が並んでいる。赤い警告ばかりだった。

 その横には、乗員の休養予定と、拿捕船へ送る調査班の編成表も開かれている。


 ずいぶん忙しそうだ。


 主な原因が俺にある気もするが、いまは黙っておこう。


 セラは命令文を開き、日付と認証欄を確認した。


「間違いありません。ロズベル領軍司令部からの正式命令です」

「読んでくれ」

「第二艦隊は、辺境宙域における海賊残党の掃討を継続せよ。逃走した敵艦の航路を追跡し、旧鉱山帯および廃棄ドック周辺宙域の治安状況を確認すること」


 旧鉱山帯。


 先ほど、海賊船の端末から座標が見つかった場所だ。

 偶然にしては、少し出来すぎている。


 命令文には、治安状況の確認、現地補給、再利用可能資材の調査、現地司令官の判断と並んでいる。

 だが、補給も休息もないことに変わりはない。


 セラは命令文を閉じなかった。


「戦闘直後の艦隊に、補給も休息も与えず、危険宙域へ進めと命じています」


 艦橋の兵たちが、セラを見る。

 俺はもう一度、命令文へ目を通した。


 拿捕物資の暫定使用。

 廃棄補給ステーションの調査。

 現地司令官判断による行動。


 ずいぶんと、使い道の多い命令だ。


 セラが顔を上げた。


「……見殺しです」


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