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前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜  作者: オカノヒカル


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第5話 旧式主砲、星を穿つ

「各艦、戦闘隊形を維持。敵の大将を探せ! 主砲、射撃用意」


 俺が告げると、それまで重なっていた報告や操作音が、わずかに途切れた。


「中央大型艦から、指揮通信が集中しています。敵旗艦と推定」


 索敵士の報告に、星図上の中央艦が強調表示された。


「その旗艦に照準を合わせろ」

「目標、敵旗艦。主砲照準、固定」


 兵装管制士の声が返ってくる。


 姿勢制御スラスターが短く噴き、《アーク》の鈍重な船体がわずかに回った。

 艦首を貫く主砲の中心軸が、星図上の敵旗艦へ重なる。


 赤い警告灯が明滅し、正面の星図では海賊艦隊を示す赤い点が迫っている。艦首へ集まった力が、床を通じて足の裏に伝わってきた。


 艦首側から細かな振動が続いている。補正した支持架と装甲が、主砲の負荷を受けていた。


『主砲、発射シーケンス開始』


 青白い箱舟型のホログラムが、艦橋中央で明滅した。ノアの声は妙なほど冷静だ。


『艦首構造材、負荷上昇』

『未登録補正処理、稼働』


 セラは端末から顔を上げた。


「司令、本当に撃つんですか。艦首が持つ保証はありません。主砲だけでなく、艦全体が歪みます!」

「持たせる」

「言い方が軽いです!」

「重く言えば持つのか?」

「そういう問題ではありません!」


『未登録動作、稼働』


 ノアの報告に合わせ、艦首の外部映像が拡大された。


 灰色の艦首を割るように、中央の装甲扉がゆっくりと左右へ開いた。

 その奥から、黒く焼けた主砲口が姿を現す。


 細い黄金の線は砲口を囲み、船体中央へ埋め込まれた長砲身に沿って走った。光は艦の奥へ巻きつき、深い螺旋を描いている。


 前世で杖へ大きな術を通した時と同じだ。力は、ただまっすぐ押し込めばいいものではない。


 回し、束ね、先端へ通す。暴れそうなら縛り、割れそうなら逃がす。


 古い杖には、古い杖なりの撃ち方がある。


「司令、最後に確認します。これは通常射撃ではありませんね?」

「そうだろうな」

「そうだろうな、ではなく!」

『発射可能。ただし、結果予測不能』


 セラが青白い箱舟を睨んだ。


「それを可能と言わないでください!」


 俺は正面の星図を見た。


「ノア」

『はい、司令官』

「敵海賊船に向けて撃て」

『司令官に主砲発射許可を申請』

「司令、本当に撃つんですか?!」

「許可する」

『主砲、発射』


 発射と同時に、船体の奥で低い音が響いた。


 宇宙に砲声は響かない。それでも、船体の内側を走った低い振動が骨まで伝わってくる。


 艦首から船体中央まで走っていた黄金の術式が、一斉に輝いた。

 光は古い装甲の継ぎ目を伝い、開いた砲口の奥で螺旋を描きながら細く圧縮されていく。


 次の瞬間、星の海へ一本の光が伸びた。


 ただの熱線でも粒子砲でもない。


 黄金の螺旋をまとった光は、星々の間をまっすぐ走り、海賊旗艦へ突き刺さった。


**


「敵旗艦、照準反応!」


 海賊旗艦の艦橋で、海賊の頭領であるバルドは笑っていた。


「散開しろ! 前面シールド最大!」


 言葉は最後まで続かなかった。


 正面スクリーンが金色に染まり、通信士が椅子から身を乗り出す。


「高エネルギー反応、直撃コース!」

「回避しろ!」


 遅い。


 スクリーンを埋める出力表示を見て、バルドの顔から笑みが消えた。


「馬鹿な……旧式艦の出力じゃ――」


 言葉が終わるより先に、光が来た。


 前面シールドを貫き、艦首装甲に穴を開ける。艦橋の脇をかすめ、そのまま炉心区画まで一直線に貫いた。


 熱が広がるより先に、艦の中枢が沈黙する。


 内部で何かが爆ぜ、遅れて裂け目から光が噴き出した。海賊旗艦の艦腹に金色の穴が開き、火と空気と装甲片が宇宙へ散っていく。


 バルドは、何が起きたのか理解できなかった。


 海賊旗艦は針路を崩し、艦尾からゆっくり折れた。


**


 艦橋は静まり返っていた。


 誰も歓声を上げない。


 正面の星図では、最も大きかった赤い点が消え、代わりに残骸反応が散っていた。


『敵司令艦、戦闘不能』

『本艦艦首、損傷軽微』

『主砲砲身、許容範囲内』

『熱量収支、不一致。反動計算、不一致。再計算を推奨』


 セラは端末を握ったまま、外部映像を瞬きもせず見つめていた。


「……今のを、撃ったんですか?」

「撃ったな」

「この艦で?」

「この艦でだ」

「この主砲で?」

「この主砲でだな」


 セラは口を閉じた。


 俺は主砲を通った力の感触を思い返す。


 流れは悪くなかった。砲身も耐え、反動も艦首全体へ逃げている。


 ただ、最後の集束が少し右へ流れた。敵艦の中枢は抜いたが、狙った中心を正確に通ったわけではない。


「照準が少し甘いな」


 セラがゆっくりこちらを見た。


「今のを、甘い、で済ませるんですか……?」

「次はもう少し真ん中を通す」

「次を撃つ前提で話さないでください!」

『同意。主砲再射撃は非推奨』

「必要なら撃つ」

「必要にならないようにしてください!」


 艦橋の兵たちは、まだ動けずにいた。


 若い操舵士は口を開けたまま星図を見つめ、索敵士は自分の端末と外部映像を何度も見比べている。


 やがて、誰かが小さく呟いた。


「勝った……のか?」

「敵艦は沈黙した」

「この棺桶で……?」


 先ほどまで俺を値踏みしていた視線が、外部映像と俺の間を行き来していた。

 侮るような色は、もうない。

 代わりに、どう扱えばいいのかわからないものを見る目が増えていた。


『敵艦隊、統制崩壊』


 ノアの報告を受け、索敵士たちが端末へ目を戻した。


『調査艦より航跡分析を受信』


 乱れていた赤い予測線が、三つの進路に分かれた。


『敵二隻、外縁方向へ離脱』

『一隻、推進停止』

『残る二隻は進路変更。うち一隻は《アーク・ロズベル》、もう一隻は後方艦群へ接近中』

「逃げるものと、襲うものを分けてくれたか」

『調査艦の観測機器は旧式ですが、噴射プラズマの航跡分析には使用可能です』


 星図上の赤い点が乱れている。司令艦を失った海賊艦隊は、隊列を保てなくなっていた。


 ノアが、敵の通信を拾う。ノイズまみれに海賊たちの声が流れてきた。


〈旗艦沈黙!〉

〈バルド船長の応答なし!〉

〈何を撃たれた!?〉

〈第二艦隊の旧式主砲じゃなかったのか!〉

〈逃げろ!〉

〈散開しろ! 直線上に並ぶな!〉

〈拿捕は中止だ、沈めろ!〉


 すべて逃げるわけではないらしい。


 赤い点のうち二隻が距離を取り、一隻がこちらへ砲口を向けた。残りは進路を決めかねている。

 逃走する艦と、こちらへ向き直る艦が星図上で分かれていく。

 これなら、戦うつもりの相手だけ見ればいい。


「追撃できます」


 セラの声はまだ震えていたが、目は端末から離れない。


「敵艦隊は統制を失っています。今なら――」

『主砲、再射撃不能。砲身冷却および艦首構造の点検が必要です』

「主砲は使わん」


 セラが目を瞬いた。


「え?」

「通信士、全周波数を開け。降伏勧告だ」

「全周波数、開放します」

「逃走艦も追わないんですか?」

「逃げる者まで焼く必要はない」


 俺は星図を見たまま告げた。


「こちらはロズベル第二艦隊司令官、レオン・ロズベル。武装を停止しろ。離脱するなら追わん。こちらへ砲口を向けるなら、次は機関部を潰す」


 セラが小声で呟く。


「海賊相手の降伏勧告としては、ずいぶん大雑把ですね」

「伝わればいい」

『通信到達を確認。敵艦隊、反応分岐』


 赤い点が二つ、こちらへ背を向けた。一つは推進を止め、残る二つは砲口をこちらへ向ける。


『敵二隻、攻撃意思継続』

『中型艦一隻、本艦へ接近』

『小型艦一隻、後方の補給工作艦へ針路変更』

「支援艦を狙ったか」


 旧式軽巡洋艦から通信が入った。

 艦長のマルク・ハイゼン中佐だ。


〈後方艦群はこちらでまとめます。フリゲート二隻を迎撃位置へ〉

「任せる。沈める必要はない。後方へ近づけるな」

〈了解しました、司令〉


 俺は艦橋の前方席にいる兵装管制士へ指示を出す。


「兵装管制。敵艦の推進器を狙えるか」

「この距離なら可能です」

「機関部だけ止めろ」

「了解。副砲、照準固定」

「撃て」


 副砲が火を噴いた。

 一拍遅れて、海賊艦の推進器が片側だけ弾け、船体が姿勢を崩して回転を始める。


『左舷フリゲート、敵小型艦の進路前方へ警告射撃』

『右舷フリゲート、側面から射界を確保』


 星図上で二隻の旧式フリゲートが、補給工作艦へ向かう小型艦を左右から挟んだ。

 速さでは敵に劣る。火力も強くない。


 それでも、二方向から撃たれれば、まっすぐ支援艦へ近づくことはできない。


『敵小型艦、進路変更』

『後方艦群から離れます』


 敵艦の砲口に白い光が集まった。


『敵艦、射撃準備。着弾予測、本艦右舷外縁』

「避けられるか?」


 若い操舵士が操舵桿を握り直した。


「推力は戻っています。やれます」


 操舵士が口元を上げた。


「なら任せる」

「任されました!」


《アーク・ロズベル》が鈍く傾いた。


 古い船らしい重い動きだ。それでも、敵の照準から外れた。


 敵の光は右舷装甲をかすめ、そのまま星の海へ流れていく。


『被弾なし』


 ノアからすぐに報告が入る。


「副砲、もう一度」

「照準、敵艦武装制御区画」


 兵装管制士が復唱する。

 セラが目を細め、こちらを向いた。


「待ってください。そこでは撃沈しません」

「沈める必要はない。撃て」


 副砲が火を噴き、敵艦の砲塔群を砲弾が貫いた。火花が散り、推進器の出力が落ちる。

 二隻目も戦う力を失った。


「退け。俺は無駄な戦は好まん」


 俺の声が通信へ乗る。


 残った海賊艦は、もう撃ってこなかった。

 一隻は損傷して停止。二隻が投降。二隻が逃走。旗艦は戦闘不能。


 追うつもりはない。

 戦う意思を失った相手まで追い回す必要はない。


『戦闘継続意思を示す敵艦、なし』

『交戦終了と判断』

「逃走艦は追うな。投降艦を監視する」


 俺は星図上の各艦へ指示を振り分けた。


「ハイゼン艦長。軽巡洋艦で降伏した艦との通信をまとめろ。フリゲート二隻は左右から武装区画を監視」

〈了解しました。後方艦群はこちらで引き受けます〉

「調査艦は逃走艦の航跡を記録。補給工作艦は《アーク》の点検準備だ」


 通信士が各艦へ命令を送る。


「軽巡洋艦、投降艦との通信を引き継ぎ」

「フリゲート二隻、監視位置へ移動」

「調査艦、逃走航跡を追跡中」

「補給工作艦、外部修理ドローン準備」


 ばらばらに散っていた旧式艦が、それぞれの仕事へ動き始めた。


 艦橋では、誰もすぐには声を出さなかった。

 若い操舵士は両手を膝へ置いたまま固まり、通信士席の兵は何が起きたのかわからない顔をしている。


 古参兵らしい男がこちらを見て、敬礼しかけた。だが、途中で手を止めた。


 それでいい。

 全員、生き残っただけでも十分なのだ。


「艦の損傷具合は?」

「主砲砲身、温度高止まり。冷却系は稼働していますが、再射撃可能値まで下がっていません」


 兵装管制士が表示を切り替える。


「砲身内壁に局所的な摩耗を確認。副砲二門も冷却中です。現時点で主砲は使用不能」


 続いて、艦橋の通信装置から損害管制担当の声が流れた。


〈艦首構造に微細な歪みを確認。主砲動力配管の支持架に亀裂があります。放熱板の一部も限界温度へ接近しました〉

〈補給工作艦より、応急修理支援の申し出〉

〈修理ドローン二機、艦首点検用に準備完了〉


 セラが即座に答える。


「主砲系統の残留熱を確認してから接近させてください。冷却材と支持架用の補修材もお願いします」

〈補給工作艦、了解〉

「気密破損と火災は?」

〈ありません。船倉、兵員区画、烹炊所にも損傷なし。ただし、艦首側の空調系統に不具合が再発しています〉


 艦内に大きな破損はないらしい。


「各艦、死亡・重傷報告なし」


 通信士が僚艦から届いた報告を読み上げた。


「補足。艦首表面の未登録発光パターン、一部途絶」


 ノアの箱舟型ホログラムが明滅する。


『射撃時の熱量収支および反動計算は、引き続き不一致。本艦主砲の安全な再射撃条件を算出できません』


 セラは各部署から届いた数値を端末上で確認した。


「主砲は砲身冷却、艦首構造の点検、支持架の補修が終わるまで使用禁止です。次に同じ出力で撃てば、今度こそ艦首が持ちません」

「軽微というには、いろいろ壊れたな」

「これで済んだこと自体がおかしいんです!」

「支持架から先に直すか」

「司令」

「分かっている。撃つ前に直す」

『主砲再射撃は、現時点で不可能です』

「しばらく撃てんか」

「しばらく、ではなく点検が終わるまでです」


 セラの声が艦橋に響いた。


 これだけ怒鳴れるなら、まだ大丈夫だろう。


**


 戦闘が終わると、やるべきことが多すぎて忙しくなった。


 軽巡洋艦は投降艦との通信を引き受け、二隻のフリゲートが左右から武装区画を監視している。

 補給工作艦からは修理ドローンが飛び、《アーク》の艦首へ慎重に近づいていた。

 調査艦は遠ざかる二隻の航跡を追い、戦闘中の通信と武装反応を記録し続けている。


 《アーク》の艦橋でも、救難信号の処理、投降艦への警告、自艦の応急修理、戦闘ログの解析が同時に進められていた。


 セラは三つの端末を並べていた。目の下の隈はさらに濃くなっているが、指は止まらない。

 青白い箱舟型のノアが、その横でゆっくり回転している。


『主砲射撃ログ、解析中』


 セラは表示された数値を追いながら、早口で言った。


「出力、反動、熱量、燃料消費。全部、計算が合いません。でもログは残っているし、観測もできています。なら、現象としては存在している」

『結論。既存物理法則データベースでは説明不能。ただし、誤報ではありません』

「誤報であってほしかったです」

「撃てたならいいだろう」

「よくありません!」


 返事が早い。


「司令、これは主砲が強くなった、で済む話ではありません。反動が消えたわけでもないのに艦首が持っている。熱量が出ているはずなのに、放熱が計算より少ない。燃料消費も少なすぎます。しかも、砲撃の軌跡に観測不能な反応が残っています」

「残っている?」

「はい。ここです」


 セラが投影画面を拡大した。


 主砲の光が通った軌跡に、薄い波が残っている。肉眼では見えず、計器上でもノイズに近い。だが、砲撃の軌跡と完全に重なっていた。


『観測不能媒質反応、砲撃軌跡上に残留』

『真空中における媒質揺らぎの可能性』

「真空中に、媒質……?」


 セラの声が低くなる。


 俺には、何を不思議がっているのかわからない。


「あるだろう。外に満ちている」


 セラがゆっくりこちらを向いた。


「司令」

「なんだ」

「真空に、何かがあるんですか?」

「ある」

「何が」

「前から、俺はエーテルと呼んでいる」


 セラが額を押さえ、ノアの箱舟が一瞬だけ停止した。


『「魔力」に該当する分類はありません。「エーテル」は、旧物理学上の仮説名称と一致します』

「名前が残っているなら、それを借りればいい」

「簡単に言いますね……」


 分類名は後で決めればいい。

 そこに力があり、使えることが分かれば十分だった。


 セラが何か言いかけた時、別の警告音が鳴った。


『戦闘中に傍受した敵通信ログの解析を開始』


 青白い箱舟の周囲に、暗号化された通信断片が浮かんだ。


『暗号強度、民間海賊標準を超過』


 セラの眉が寄る。


「海賊の暗号ではない?」

『暗号強度、民間海賊標準を超過』

『補給記録、一部削除済み』

『調査艦より追加観測データを受信』

『敵中型艦および小型艦の砲撃波形に、共通する出力制御を確認』

『異なる船体へ、同一系統の武装改修が行われた可能性があります』


 セラは端末を操作し、表示を切り替えた。


「寄せ集めの海賊船に、同じ改修業者が武器を載せた……?」

「海賊にも切れ者はいるだろう」

「そういう話ではありません」

『司令。通信ログの復号を提案』

「わかった。許可する」


 俺は正面の星の海へ目を向ける。


 海賊は退き、第二艦隊は生き残った。主砲は撃てたし、艦も吹き飛ばなかった。

 だが、兵たちは疲れ、腹も減っている。

 戦の後に冷えた合成食をかじらせるのは、やはりよくない。


 まずは飯だな。

 そう考えた時、セラがまだ砲撃軌跡の記録を見つめていることに気づいた。


「エーテル……まさかね」


 ほとんど独り言のような声だった。


『セラ。【エーテル】は、既存物理学では棄却された歴史的仮説です』


 ノアの回答を無視するかのように、セラは端末から目を離さなかった。


 その画面には、黄金の光が通った跡に残る薄い波が映っていた。




■あとがき


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


続きが気になる方は、ブックマークしていただけると嬉しいです。

評価やリアクション、感想も、今後の執筆の大きな励みになります。


これからもよろしくお願いします。

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