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前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜  作者: オカノヒカル
第三章 星域新生

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第35話 めぐりあい宇宙(前編)

 宇宙はいい。


 本星《カレド》を離れ、軌道港へ向かう連絡艇の窓から星が見えた瞬間、そう思った。


 一か月ぶりだった。


 大気圏を抜けた途端、地上より濃いエーテルを感じる。身体の周囲に馴染んだ力が戻ってくるようだ。


「……やはり、こっちだな」


 誰に聞かせるでもなく呟く。


 昨日まで机の上で増殖していた書類も、ここまでは追ってこない。

 少なくとも今は。


 連絡艇が軌道港へ接舷した。

 俺は一人で降りる。

 迎えはいらないと言っておいた。


 ここは第二艦隊が使っている港だ。

 港内を行き交う作業員や兵士に軽く挨拶を返しながら、整備ドックへ向かう。


 昨日、端末に表示されていた予定。


【軌道港――《アーク・ロズベル》改装状況確認】


 それだけを楽しみに、昨夜は書類を片づけた。


 やっと《アーク》へ戻れる。


 そう思っていたのだが。


 指定された整備ドックへ入り、俺は足を止めた。


「……ないな」


 《アーク》がいない。


 大型戦艦一隻が消えるとは考えにくい。ドック番号も合っている。


 視線を上げる。


 作業足場が何層にも組まれていた。


 大型クレーンが動き、資材コンテナが次々と運ばれている。その奥では作業艇が小刻みに姿勢を変え、何十人もの整備員が外壁や骨格へ取り付いていた。


 巨大な灰色の構造物が、その中央にある。


 艦首の外装は大きく取り外されている。

 盾頭の周囲も開かれ、内部骨格が露出していた。

 船体中央でも装甲板が何枚も消え、外から艦内設備の一部が見えている。

 増設していた外骨格も、いくつかの区画では取り外されていた。


 見覚えはある。


 あるのだが。


「……これを《アーク》と呼んでいいのか?」

『肯定。本艦です』


 頭上の作業用スピーカーからノアの声が返ってきた。


「だいぶ小さくなっていないか?」

『船体質量は改装開始前より一時的に減少しています』

「そういう意味ではない」

『承知しています』


 最近、この船は分かっていて答えることがある。

 良くない成長かもしれない。


「司令?」


 聞き慣れた声がした。

 足場の下からセラが歩いてくる。


 いつもの軍服より作業向きの勤務服で、黒髪のボブには少し乱れがあった。片手に端末を持ち、反対の手には作業用手袋を握っている。


 俺はもう一度《アーク》を見た。


「……何をした?」

「改装ですけど」

「修理ではなかったのか?」

「修理だけなら、ここまで開けません」


 セラは当然のように答えた。


「これまでの《アーク》は、戦うたびに壊して、そのたびに応急処置を重ねてきましたから」

「壊したのは敵だ」

「司令自身がぶつけた分もあります」


 それは否定できない。

 敵艦へ正面から突っ込んだ記憶はある。


「今回は時間があります。なので、一度きちんと開けて、応急改修の積み重ねを整理しています。外から付けただけの構造も、艦内系統も、正式な形に落とし直しているところです」

「なるほど」


 外から継ぎ足しただけでは、奥の骨格や系統までは直らない。

 一度全部開いて、そこから組み直しているということか。


「司令、そこは止まらないでください。資材が通ります」


 後ろから声をかけられた。


「すまん」


 俺が避けると、大型運搬機が長い構造材を載せて通っていった。

 その先で、淡い蜂蜜色の髪を低い位置でまとめた女が端末を見ている。


 リーネ・カーヴェルだ。


「第七フレーム、仮固定完了しました」


 作業員が報告する。

 リーネが表示を確認した。


「内部側は?」

「確認待ちです」


 すぐ横で別の技師が端末を上げた。


「冷却経路、配管スペースとも干渉ありません」

「では固定しましょう」


 大型固定具が動く。


『第七フレーム固定誤差、許容範囲内』


 ノアの声が重なった。


「固定完了。次、内部系統班入ります」


 待っていた整備員たちがすぐに動く。

 ついさっきまで骨格材を運んでいた場所へ、今度は配管と制御線を扱う班が入った。

 その後ろでは、もう検査班が機材を準備している。


 別の区画でも同じだった。


 構造材が入る。

 内部設備が続く。

 配管が接続される。


 その後ろを検査班が追う。

 誰か一人が全部やっているわけではなかった。


 それでも作業は途切れない。


「第三冷却幹線、仮接続完了です」

『接続確認。圧力試験準備可能』

「まだ流さないでください」


 セラが少し離れた場所から言う。


「隣の支持部を先に固定します。そこが動くと接続部に負荷が来ます」

「了解」


 リーネは自分の端末へ視線を落としたまま、別の班へ短く指示を出す。


「第五支持部、固定を先にしましょう。内部班が待っているから、予定を三分前倒しできるかしら?」

「できます」

「お願い」


 それだけで作業順が入れ替わった。


 以前の二人を知っている身としては、少し妙だった。

 仲良く雑談しているわけではない。


 昔のことを笑って話しているわけでもない。

 それでも、仕事は噛み合っている。


 セラが次に何を通すか分かっているから、リーネの側が先に場所を空ける。

 リーネがどこへ荷重を逃がすか分かっているから、セラの班もそこへ配管を置かない。


『冷却系統仮接続を確認』

『第七フレーム固定完了』

『隣接区画との設計照合。問題なし』


 ノアも忙しい。


 人間が作業する横で、膨大な検査結果を片端から処理している。

 俺はしばらくその様子を見ていた。


 誰も止まらない。

 誰も俺へ聞きに来ない。


「……俺は?」


 セラが振り返った。


「はい?」

「何か手伝わなくていいのか?」

「見学してください」

「それだけか?」

「司令が今から新しい改造を思いつく方が困ります」


 釘を刺された感じだった。


「魔法側で必要な固定術式は、もう渡したはずだが」

「はい。なので、今日は触らないでください」


 どうやら俺の仕事は、本当に見ていることらしい。


 俺は外装を剥がされた《アーク》を見上げた。


 少し納得がいかない。

 だが、俺がいなくても船が直るのなら、本来は良いことだ。


 たぶん。


 第一艦隊の旗艦から移した白い外骨格も、今は外されていた。

 あれもこの改装で、使える部材だけを組み直すらしい。


「結局、どんな船になる?」

「今よりまともになります」

「見た目は?」


 セラも船を見上げた。


「基本の形は変えません」

「そうか」


 それならよかった。


「なんで安心した顔をするんですか」

「《アーク》はこれでいい」


 細く尖った最新艦のような姿になったら、それはもう別の船だ。


 灰色で四角く、鈍重。


 必要な場所に装甲と機械を積み、艦首に大砲を一本通したような船。


 その方が落ち着く。


 今はほとんど骨だが。


**


 一通り改装区画を見て回った頃には、作業交代の時間になっていた。


 セラは残るらしい。


「私はもう少しいます。圧力試験まで見ておきたいので」

「無理はするなよ」

「してません。今日は普通の勤務時間です」


 重傷から復帰して、まだそれほど経っていない。

 本人は平気だと言うが、前より少しだけ気になるようになった。


 リーネの方は端末を閉じた。


「司令官、もう地上へ戻ります?」

「ああ。そのつもりだ」

「でしたら、少し待っていてください。私も今日は上がりなので」

「分かった」


 港の待合区画で待つことにした。


 数分後。


 通路から一人の女が歩いてきた。

 淡いクリーム色のワンピース。

 襟や袖には細かなレースが入り、胸元には小さなリボンがついている。柔らかく膨らんだスカートが歩くたびに揺れた。


 長い蜂蜜色の髪も、仕事中より柔らかくまとめ直してある。

 そのまま俺の前まで来た。


「お待たせしました」

「……リーネ?」

「はい」


 一瞬、分からなかった。


「そういう服を着るんだな」


 リーネが自分の服を見る。


「何か変ですか?」

「いや。仕事中と違いすぎただけだ」

「私だって帰る時まで制服ではありませんよ」

「仕事中のリーネしか知らなかったからな」


 リーネが少し眉を寄せた。


「私の認識、どうなってるんですか?」

「腕のいい船体設計士だと思っている」

「それなら、まあ……いいですけど」


 少しだけ納得したらしい。


 俺たちは地上便の旅客区画へ向かった。

 整備区画を離れると、港の空気も変わる。

 作業服と軍服ばかりだった通路に、旅行客や商人が増えた。


 売店。

 飲食区画。

 荷物を引く家族。

 地上行きの便を待つ人々。


 戦艦を骨まで剥がしていた場所から、数区画しか離れていないとは思えない。


 搭乗口へ向かっていた時だった。


「あっ、それ、メルヴェイユですよね?」


 明るい声がした。


 振り返る。


 少女が二人いた。


 どちらも十五歳くらいだろう。


 先に声を上げた少女は、リーネの服を見て目を輝かせている。


「今期のやつですよね? その型、実物初めて見ました」

「まあ。よく分かったわね」

「好きなんです。でも高くて見るだけですけど」

「アンナ。知らない人にいきなり服の値段まで聞かないの」


 隣の少女が友人の袖を引く。


「値段は聞いてないよ」

「そのうち聞くでしょ」


 アンナと呼ばれた少女が何か言い返そうとして、今度はこちらを見た。


「……あれ?」


 表情が止まった。


 俺を見る。


 もう一度見る。


「えっ」

「どうした?」

「レオン・ロズベル?」

「ああ」

「本物?」

「たぶんな」

「たぶんって何ですか」


 リーネから訂正が入った。


 少女は目を丸くしたまま、俺の周囲を見る。


「領主代行ですよね?」

「今はそうなっている」

「なんで護衛の人がいないんですか?」


 言われてみれば、そう見えるらしい。


「普通に歩いてるから、一瞬分かりませんでした」

「ここは港の警備区画内だ。それに、護衛を何人も連れて歩くと、みんな道を空けるだろう」

「それは……空けますね」

「そうなると、普段の港がどう使われているのか分からなくなる」


 港の混み具合や、利用者の様子は、領主府の報告書だけでは分からない。

 自分で歩いた方が早い。


「だからって、完全に一人で出歩くのは感心しませんけどね」


 リーネが横から言った。


「今日は一人ではない」

「私を護衛扱いしないでください」


 そういう意味ではなかった。


 アンナが楽しそうに笑う。


「なんか、思ってたのと違う」

「何を思われていたんだ」

「もっとこう……近づいたら警備の人に止められる人かと」


 それは人の種類なのだろうか。


「あの、サインもらってもいいですか?」

「サイン?」

「はい!」


 アンナが自分の端末を差し出した。

 表示されているのは、ただのメモ画面だ。


「ここにお願いします。アンナって入れてもらえると嬉しいです」

「アンナ・ミュラーです」


 隣の少女が補足した。


「ちょっと、エルゼ。自分で言うところだったのに」

「遅いから」

「じゃあ、こっちはエルゼ・フィッシャー。私の友達です」

「自分で名乗るから」


 今度は立場が逆になったらしい。


「エルゼ・フィッシャーです」

「レオン・ロズベルだ」

「それは知ってます」


 そうだった。


 俺はアンナの端末へ名前を書いた。

 これでいいのだろうか。


 返すと、アンナは妙に大事そうに端末を抱えた。


「ありがとうございます!」

「そんなに価値のあるものでもないと思うが」

「ありますよ!」


 本人より詳しいらしい。


 そこで二人を改めて見る。

 制服らしい服装。


 大きな旅行荷物はない。

 保護者も見当たらない。


「君たちは旅行か?」

「いえ。病院の帰りです」


 アンナが答えた。


「病院?」

「私の定期検査です」


 横にいたリーネが少し考えてから言った。


「ここの軌道医療施設?」

「はい」

「あそこ、遺伝性疾患や希少疾患の検査設備が集まっていたわよね」

「そうです。地上の病院だとできない検査もあるから」


 アンナは自分の胸へ軽く手を当てた。


「心臓が、生まれつきちょっと悪いんです」


 言い方は明るい。

 隣のエルゼも、特に慌てた様子はなかった。


 何度も付き添っているのだろう。


「今日は?」

「問題なしでした。次もいつも通りでいいって」

「ならよかった」

「はい」


 ちょうど地上便の搭乗表示が見えてきた。


 アンナがリーネへ手を振る。


「服、見せてもらえてよかったです」

「次は買えるといいわね」

「頑張ります」

「何を頑張るの」


 エルゼが突っ込む。


 搭乗口へ向かいかけたところで、アンナの足が止まった。


「……あれ?」


 声が変わった。

 胸を押さえる。


「アンナ?」


 エルゼがすぐに振り返る。


「ちょっと……待って」


 アンナの身体が傾いた。


 エルゼが抱き止める。


「アンナ!」




次回、『第35話 めぐりあい宇宙(後編)』の投稿は来週となります。

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