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前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜  作者: オカノヒカル
■第二章 星域防衛

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第33話 逃げた領主を連れ戻せ(前編)

 本星港緊急入港許可。


 その文字が、ガレスの前に浮かんでいた。

 共同治安艦隊の中型艦。


 会議室の端末には、生体認証済みを示す表示が灯っている。

 残っているのは本人による最終意思確認と、正式な電子署名。


「領主閣下。生体認証は完了しております」


 向かいに座る男の声は、まだ穏やかだった。


「残るのは最終承認のみです」

「待て」

「何をお待ちになるのでしょう」

「この承認で認めるのは、共同治安艦隊の本星港への入港だけだな?」

「まずは、本星港の安全確保です」


 ガレスの指が止まった。


「まず?」

「その後、第一艦隊および第二艦隊の武装停止、ステーション17の共同安全管理、《アーク・ロズベル》の安全検査について協議を進めます」

「やはり全部ではないか!」



 ガレスが端末から手を離した。


「港を開けたあと、私の艦隊まで取り上げるつもりだろう!」

「治安正常化に必要な措置です」

「断る!」


 男の眉が、ほんの少しだけ動いた。

 港も艦隊も、領主である自分の命令が届かなければならない。


 その時、床が揺れた。


「何だ!」

「問題ありません」


 警報音が会議室にも流れ込んでくる。

 ガレスが立ち上がった。


「問題がない船は、こんな警報を鳴らさん!」


**


 グレッグのヘルメット映像が揺れた。


〈第二分隊、右通路。第一分隊は俺と来い〉


 強化揚陸装甲が、裂けた隔壁の向こうへ進む。

 敵艦内は非常灯だけになっていた。


 こちらが開けた穴から近い区画は減圧している。

 空気の残っている区画との境目には、緊急隔壁が何枚も下りていた。


『前方隔壁裏、熱源四』

「聞こえたな。対装甲兵器に気をつけろ」

〈了解!〉


 隔壁脇から小型カメラが伸びる。

 すぐに撃ち落とされた。


「ちゃんと抵抗してくるな」

〈治安部隊ですからな。海賊より装備はまともです〉

「褒めている場合か」

〈敵を馬鹿にすると死人が出ますので〉


 もっともだ。


 グレッグが手で合図する。


 強化揚陸装甲の一機が前へ。

 隔壁がわずかに開いた瞬間、その隙間から対装甲弾が飛んできた。


 盾へ直撃。

 装甲が大きく揺れる。


〈右!〉


 別班が側路から射撃。

 敵の銃口がそちらへ向く。

 その間に前衛が隔壁へ取りついた。


〈開けろ!〉


 切断工具が走る。

 金属が赤く焼ける。


 敵側も待ってはいなかった。

 隔壁の向こうで足音が動く。


『武装要員、後退』

〈追うな!〉


 グレッグが止めた。


〈入口を取ればいい! 横道へ釣られるな!〉


 隔壁が崩れる。

 揚陸隊が一気に入った。


 床へ伏せた敵兵が武器を放した。


「抵抗をやめた者は撃つな」

〈了解しました、司令〉


 武器を置いた人間まで殺す理由はない。


 グレッグ隊が先へ進む。


『ガレス・ロズベル領主認証プロトコル、継続中』

「どこまでだ?」

『最終意思確認待機』

「グレッグ」

〈聞こえてます〉

「急げ」

〈急いでおりますよ、司令〉


 映像の中で、次の隔壁が近づいた。


**


 また振動が来た。

 今度は先ほどより近い。


 会議室の壁に、艦内警報が表示される。


「侵入部隊、第二保安区画を突破!」


 通信音声が響いた。

 ガレスの顔が上がる。


「……レオンか?」


 向かいの男は答えない。

 その沈黙だけで十分だった。


 ガレスが笑った。


「なら、この書類に署名する必要はない!」

「領主閣下」

「レオンが来ているのだろう! なら私を本星へ戻せ。話はそれからだ!」


 先ほどまでの青ざめた顔は消えていた。

 自分で状況を変えたわけでもないのに、もう勝ったつもりらしい。


 男の視線が卓上端末へ落ちる。


「時間がありません。承認してください」

「断る!」

「このままでは、本星の安全を保証できません」

「レオンが何とかする!」


 ガレスが胸を張った。


「そもそも《アーク》も第二艦隊もロズベル領軍だ。領主である私を守るのは当然だろう!」


 男の表情から、初めて穏やかさが消えた。


**


『警告』


 ノアの声。


『領主認証端末からデータ消去処理を検出』

「何を消している」

『協議記録、提示文書、認証履歴を含む複数領域』


 諦め始めたか。


「グレッグ。端末を壊させるな」

〈了解!〉


 ヘルメット映像が走る。

 最後の保安区画。


 そこだけ敵の人数が増えていた。


『隔壁前方、武装要員九。対装甲兵器二』

「多いな」

〈目的地がばれておりますな〉


 グレッグが盾役を前へ出す。


〈第一分隊、正面を押さえろ。第二分隊、左の保守通路へ。端末班は俺の後ろだ〉

〈了解!〉


 敵側から射撃。


 強化揚陸装甲の盾が火花を散らす。


〈撃ち合うな! 前へ詰めろ!〉


 グレッグ隊が壁際を進む。

 一人が対装甲兵器を構えた。


 その前に、側路へ回った隊員が銃口を向ける。


〈武器を捨てろ!〉


 敵兵が振り向く。


 一瞬迷った。

 兵器を床へ落とす。


〈そのまま伏せろ!〉


 もう一人は撃った。

 強化揚陸装甲が正面から受け、別の隊員が射線をずらす。


 敵が後退。


〈追うな!〉


 グレッグが怒鳴った。


〈扉だけ取れ!〉


 切断工具が隔壁へ食い込んだ。


『ガレス・ロズベル領主認証、最終意思確認画面を継続表示』

「まだ通ってないな」

『肯定』


 隔壁が内側へ倒れた。


〈行け!〉


**


「領主閣下。これが最後です」


 男が端末をガレス側へ向けた。


 本星港緊急入港許可。

 最終承認。


「承認してください」

「断る!」


 ガレスは椅子を蹴って後ろへ下がった。


「レオンが来ているのだろう!」

「領主閣下」

「私に触るな!」


 男が立ち上がる。


 その瞬間。

 外側の隔壁が吹き飛んだ。


「動くな!」


 強化揚陸装甲が会議室へ踏み込んできた。

 続けて数人の兵士が雪崩れ込む。


「二人、端末! 一人、領主閣下! 残りは入口を押さえろ!」


 先頭の男――グレッグは、ガレスには駆け寄らなかった。

 真っ先に向かったのは、卓上の認証端末だった。


「外部線を切れ!」

「了解!」


 兵士が端末脇の接続部を開く。

 男が声を荒らげた。


「やめろ!」


 だが遅い。

 通信ケーブルが物理的に引き抜かれ、端末の表示が次々と切り替わった。


 本星港緊急入港許可。

 最終承認――未成立。


 ガレスは大きく息を吐いた。


 助かった。


 やはりレオンは来たのだ。


「遅いぞ!」


 グレッグが振り返る。


「申し訳ありません」

「こいつらを全員拘束しろ!」

「そのつもりです」


 当然だ。

 ガレスは乱れた服を直した。


「すぐ《アーク》へ戻るぞ!」

「はい。本星へお戻りいただきます」

「当然だ!」


 ようやく話の分かる者が来た。


 本星へ戻ればいい。


 あとは領主府へ戻り、何が起きたのか調べればよい。

 共同治安艦隊についても、レオンから事情を聞けばいい。


 何より、自分はまだ領主なのだ。


 ガレスは胸を張った。


 ところが、グレッグは端末の確保を確認すると、ガレスへ近づいてきた。


「司令から、生きたまま連れ戻せと言われていますので」


 ガレスは眉をひそめた。


「……何だ、その言い方は」

「俺は命令どおり運ぶだけです」

「私は領主だぞ!」

「存じております」


 返事は丁寧だった。

 グレッグはそのまま命じる。


「領主閣下を確保。撤収準備」

「了解!」


 兵士たちが動き出す。


 ガレスは口を開きかけた。


 自分は領主だ。

 ここで命令するのは、自分のはずだった。


 だが誰一人として、ガレスの次の言葉を待ってはいなかった。


**


『領主認証端末、外部接続消失』


 一拍置いて、ノアが続ける。


『本星港緊急入港許可――最終承認未成立』


 間に合った。


 俺は椅子へ背を預けた。

 少しだけ力が抜ける。


 映像の中では、グレッグ隊が会議室を完全に制圧していた。


 ガレス兄上が何か言っている。

 グレッグは政治の話をする気がないらしい。


 それでいい。


『認証端末確保を確認』

「中身は」

『取得を開始』


 表示が増える。


 ガレス兄上の生体認証履歴。

 本星港緊急入港許可。

 第一艦隊と第二艦隊への武装停止案。

 ステーション17の共同管理。

 Fランク結晶の採掘・保管管理。

 《アーク》の一時管理と技術監査。

 協議記録。

 そして、その消去処理。


 全部残っていた。


『取得データを複製。《アーク》内記録領域へ保存』

「第一艦隊にも」

『照合用複製を送信します』


 これで、あとから「兄上が自分から協力しただけ」と言われても困らない。


**


 共同治安艦隊所属中型艦の艦長は、損傷表示を見ていた。


 後部側面に大穴。

 ロズベルの旧式戦艦が食い込んでいる。

 揚陸部隊は艦内へ侵入。

 保安区画は二つ突破された。

 ガレス・ロズベルの所在区画も失った。


「領主は」

「ロズベル側に確保されました」

「認証端末は」

「外部接続を遮断されました」


 副官の返答が短い。


 艦長は目を閉じた。

 こんな任務ではなかった。


 辺境の弱小自治領。

 古い艦隊。

 領主本人を押さえ、惑星へ脅しさえかければ終わる。


 そのはずだった。


 実際には、戦略投射艦を撃ち抜かれた。

 旗艦を失った第一艦隊は崩れない。


 第二艦隊の《アーク》は単艦で迎撃線を抜けてきた。

 最後には戦艦そのものを横腹へ叩き込まれた。


「保安部隊を再編しますか」


 副官が尋ねる。

 艦長は答えなかった。


 艦内図を見る。


 赤い区画。

 失った認証端末。

 確保された領主。


「何を取り返す?」


 副官が黙る。


「領主も、認証も失った。戦いを続けて何が戻る?」

「……降伏しますか」

「そんな命令は受けていない」


 艦長は損傷表示を閉じた。


 共同治安艦隊に加わったからといって、艦籍まで消えたわけではない。

 この艦にも、乗員にも、帰るべき自治領がある。


「だが、ここで死ねとも言われていない」


 副官を見る。


「艦内保安部隊へ。抵抗を停止しろ」


**


〈司令〉


 グレッグから通信が入る。


「どうした?」

〈向こうが撃つのをやめました〉


 グレッグの映像の先で、敵兵が武器を床へ置いている。


『対象艦内武装反応、急速に低下』


 外部通信が入った。


〈《アーク・ロズベル》へ。当艦は作戦継続能力を喪失した。艦内抵抗を停止する。乗員への攻撃停止を要求する〉

「武器を置いているなら撃たない」

〈了解した〉


 それだけで通信は終わった。

 外を見る。


 共同治安艦隊本隊でも動きが出ていた。


 こちらへ向いていた艦が、少しずつ距離を取っている。

 第一艦隊はまだ本星側の防衛線を維持している。


 ハイゼンたちも港側に残っている。


 戦略投射艦は前半部を大破したまま、支援艦の補助を受けて後退を始めていた。

 まだ戦える艦は多い。


 だが、領主も認証端末も失っている。

 向こうが戦闘を続ける理由は薄い。


 少しして、共同治安艦隊から全体通信が入る。


〈ロズベル領軍へ通達する。現在の状況下では、共同治安活動の継続は困難と判断した。本件については星系連合関係機関へ裁定を求める。共同治安警戒線を解除する〉


 最後まで敗北とは言わないらしい。


「了解した」


 クレインからすぐ通信。


〈追撃しますか〉

「しない」

〈よろしいので?〉

「退く相手に兵を使う理由はない。それに、もともとは同じ星系連合の味方だ」


 本星も艦隊も残り、兄上も取り返した。

 追撃して損害を増やす必要はない。


「各艦、追撃禁止。救難と損傷確認を優先」

〈了解!〉


 共同治安艦隊が離れていく。

 俺たちは追わなかった。


**


 グレッグ隊の撤収を確認してから、《アーク》の作業固定具を外した。


『作業用クランプ、解放』


 白い外骨格のクランプが敵艦から離れ、二隻の間に隙間ができた。


 相手の中型艦は、姿勢を保つだけで精一杯らしい。

 証拠保全と乗員安全確認が終わるまで、港湾警備側で監視することになった。


 あの船は港湾警備側に任せ、こちらは中に残った記録の保全を優先する。


『《アーク》損傷再確認。艦首盾頭局所変形。外骨格固定部三か所損傷。艦首姿勢制御スラスター一基停止。防御術式節点複数に過負荷履歴』

「増えてはいないな」

『衝突後からの重大損傷増加なし』

「ならいい」


 通信が入った。


〈司令〉


 セラだった。


「起きていていいのか?」

〈聞きました〉


 嫌な予感がした。


「何を?」

〈艦首。壊したそうですね〉

「少しだ」

〈始末書、書いてくれますよね?〉


 なんだかその声が恐ろしく聞こえる。


「百ページのやつか? 多くないか?」

〈艦首の部品はいくつあると思っているのですか?〉

「資材発注書は?」

〈別です〉

「増えたな」

〈最初から別です〉


 通信が切れた。


 セラがあれだけ喋れるなら、始末書くらいは書こう。


 百ページは多い気がするが。


**


 グレッグがガレス兄上を艦橋へ連れてきた。


 両脇には揚陸隊員。


 拘束具までは付けていない。


 領主認証端末は、もう兄上の手元にはなかった。


「レオン!」

「無事でよかった」


 心にもないことを言ってしまう。

 まあ、無事でよかったのは領主認証の方だが。


「よくやった!」


 兄上が大きく頷く。そして得意げにこう指示する。


「すぐ本星へ戻るぞ。第一艦隊にも追撃を命じろ!」

「追撃はしない」

「何?」

「もう退いている」


 兄上の眉が上がった。


「領主である私の命令だ!」

「兄上」

「何だ!」

「本星へ帰ろう」

「当然だ」

「逃げた理由を説明してもらう」


 兄上の顔が止まった。


「……何?」

「帰ってからでいい」

「逃げてなどいない!」


 思ったより早かった。


「領主の安全確保のための一時退避だ! 私が死ねばロズベル領全体が混乱する。安全な場所から指揮を継続するために移動しただけだ!」

「共同治安艦隊の船の中から?」

「奴らが私を騙したのだ!」


 そこは事実かもしれない。

 少なくとも、兄上が喜んであの会議室へ入ったわけではない。


「なら――兄上が本星を離れたことも調べるまでだ」


 ここだけは、うやむやにするつもりはなかった。


「私は領主だぞ!」

「だからだ」


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