第一章 第四話 初討伐はつらいよ①
ようやく武器と防具を手に入れた翌朝、寅二郎はマロンの前に立った。
「ようマロンちゃん、今日はいよいよ討伐依頼を受けに来たよ!」
「おはようございます、トラジロウさん。……そちらの方は?」
「昨日出会った相棒さ。シドって言う。イケメンでモテそうだけど、
性格はムッツ……まぁまぁいいやつだ」
「余計な一言だ」シドが眉をひそめる。
マロンはくすっと笑いながら書類を差し出した。
「お二人でパーティ登録ですね。ではこちらに署名を――」
光の紋章が浮かび、手続きを終えると同時にギルドの中が少しざわついた。
「なんだあの変態勇者、また懲りずに依頼受けに来たのか」
「今度は男連れだぜ?そっちの趣味かもな」
嘲りの声が背後から聞こえるが、寅二郎は気にする様子もない。
むしろ鼻歌を歌いながら剣を一本、腰に吊るしていた。
「で、武器は結局それか?」とシドが寅二郎の腰の剣を見る。
「ああ。異世界っぽくてカッコいいだろ?」
「はぁ……確かにいい剣だが、お前の前の世界じゃ銃が主流だったんだろ」
「うっ……やっぱバレてるか」
「まあな。召喚された英雄たちの情報はたくさん残されている。
だが忠告しておく。
――銃はこの世界じゃ役立たんぞ。火薬も、弾も、今はもう失われた技術だ。魔物相手に使っても通じない」
「……そうらしいな」寅二郎は小さく笑う。
「でもさ、ロマンってやつだよ。
構えて、狙って、引き金を引く――その一瞬にすべてを賭ける。
たとえ効かなくても、あの“決める感覚”は最高なんだ」
「くだらない幻想だ」
「だろうな。でも男ってのは、そういうくだらないもんが好きなんだよ」
シドは鼻を鳴らした。
「面倒くさいロマンチストだな」
「うっせぇわ、リアリスト君」
そのやり取りに、受付のマロンが思わず笑ってしまう。
光が差し込むカウンターの上で、寅二郎の剣が微かに光を帯びた。
(……なんだろう、この人の“何か”が動き出してる気がする)
「さて!今日の依頼はなんだ?俺、初討伐に燃えてるぜ!」
「こちらです」マロンが差し出したのは、小型の魔物討伐依頼。
「近郊の森でスライムが群れているそうです。危険度は低いですが……」
「よし、それでいい!初陣にはちょうどいいな!」
「……ほんとに大丈夫かよ」
シドは呆れながらも、どこか期待を含んだ目で寅二郎を見た。
「まぁ見てろって。元SPを舐めんなよ?
護衛と護国、どっちも似たようなもんだ」
「SP?」
「前の世界での仕事さ。人を護るのが俺の生き方だ」
その一言に、マロンは小さく目を見開いた。
寅二郎の背後に再び、淡い光がきらめいた――まるで剣が呼応するかのように。
「……不思議な人ですね」
マロンが呟く声を背に、寅二郎とシドはギルドを後にした。
外の光に照らされた寅二郎の剣が、一瞬だけ白く光った。
しかし本人は気づいていない。
「行くか、相棒」
「おうよ。今日から俺たちは“お人好しコンビ”だ!」
「その名前、変えろ」
笑いながら歩き出す二人。
その背中に、誰もまだ気づいていない“勇者覚醒”の気配が宿っていた




