第四話 夜這いはつらいよ②
帝都の雰囲気に圧倒されていた三人だが、
馬を預けるとすぐ近くの食堂へ足を向けた。
外観は華やかさはなく、
灰色の石壁と鉄製の看板だけがぶら下がっている。
「……帝都って、なんか無駄がないね」
リラが石畳の道を見下ろしながら呟く。
「軍都だからな。食堂ですら派手さよりも規律と効率が優先される」
シドが低く答える。
「こう窮屈だと、パぁっとやりたくなるな」
寅二郎のセリフに、シドが眉を顰める。
「くれぐれも目立たないでくれよ……」
扉を押して中に入ると、広い食堂に金属の香りと肉の匂いが漂う。
木の長机には鎧姿の兵士や官吏が並び、黙々と食事をしている。
全体に規律が感じられ、雑談する声もほとんどない。
そこに現れた給仕の女性──
姿勢を正し、背筋はピンと伸び、目は冷たく光る。
服装は帝国式の制服だが、表情は完全に軍人のそれだ。
動きは無駄がなく、客に一切の甘さを見せない。
寅二郎は入り口で目を丸くし、思わず声が出た。
「おお……なんだこの人、なんか怖いけど……惹かれる……!」
「はあ!?なにその感想……」
リラが思わず肘を突き、寅二郎は「ぐふっ!」と前のめりになる。
シドは額に手を当て、ため息をついた。
「……入ったばかりで何を言い出すんだ、この馬鹿は。
あんな人に近づいたら確実に叱られるぞ」
それでも寅二郎は目を輝かせる。
「いや、でもあの給仕さん、絶対厳しく叱ってくれる系だろ?
なんか、こう……抱きしめられたら骨までガチッと正されそうな感じ……」
「黙れッッ!!」
リラとシドが同時に怒鳴る。
給仕の女性は冷たい目で三人を見渡すが、
すぐに淡々と注文を取り始める。
「旅人ですか。座ってください。注文は何ですか」
声は低く、威厳がある。笑顔は一切ない。
寅二郎はしばし固まる。
しかしようやくゴクリ、と喉を鳴らすと、
「えっと……肉と、あと、あの……今夜ご一緒に」
「お前は死ぬのか……」
シドが背後で呟く。リラは大きく頷いた。
三人は馬の疲れも忘れ、
帝都での初の食事を緊張と笑いに包まれながら始めた。




