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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第三章 ガルディア帝国編
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第四話 夜這いはつらいよ①

 城門を抜け、帝都レギオンブルクの街並みに三人は思わず言葉を失った。

 建物の高さ、石造りの重さ、街全体に漂う絶妙な圧力

──アムステルドの時よりなお重い。


「……なんか、いきなり空気が固くなった気がするんだが」

 寅二郎が眉をひそめる。


「帝国は軍の国よ。装飾よりも効率と威厳が優先されるの」

 リラが肩をすくめるが、視線は高層の建物群に釘付けになっていた。


 道の両脇の建物は直線的で重厚、黒鉄の窓格子は槍のように鋭く、赤茶の煉瓦壁には軍旗や行政紋章が掲げられている。

 教会の紋章は……ほとんどない。


「そういえば、聖ローマン教の旗とか見えないな。普通こういうデカい街って、あっちこっちに教会の飾りがあるもんだろ?」

 寅二郎が周囲を見回す。


 シドは低い声で答えた。

「この国じゃ、皇帝が教会を遠ざけている。

 “宗教は個人の信仰、

 政治に関わらせるな”というのが帝国の伝統だ」


「へぇ……そんな国があるんだ」

 リラは少し驚いた顔をした。

 アムステルドでは、

 教会の鐘が鳴らない日はないほど生活に染みついていたからだ。


 ちょうどその時、運河沿いの通りに出た。

 黒い鏡のような水面が建物の影を映し、昼間なのにどこか薄暗い。

 赤い街灯だけが点々と光り、軍都特有の冷たい美しさが街を覆っていた。


「……何か、街全体が“整いすぎてる”気がするな」

 寅二郎が身震いする。


「秩序の街だからな。余計な宗教装飾は“雑音”と見なされる」

 シドは周囲を観察しながら淡々と言う。


 リラはふっと息を吐いた。

「信仰がほぼ禁止ってわけではないのよね?」


「個人的に祈るのは自由だ。

 ただし教会が“勢力を伸ばす”のは皇帝が嫌う」

 シドがそう言うと、少し間を置き──


「……だからこそ、

 マーリン宛の密書なんて持ってると、下手をすれば処罰されるぞ」


 寅二郎とリラが同時に固まった。


「それ先に言えよ!!」

「マジで怖いじゃない!」

「言わなかったらもっと怖かっただろうが!」


 そのやり取りに周囲の帝国市民がちらりと視線を向ける。

 どの顔も真面目で、表情に崩れがない。

 軍都の民らしい落ち着きと緊張感が混ざっていた。


 しかし、そんな空気をまったく読まない男が一人いる。


「と、とにかく飯だ! 腹減って倒れそう!」

 寅二郎は馬の手綱を勢いよく引いて歩き出す。


「おい!帝都でデカい声出すな!」

 シドが慌てて追う。


「……はぁ。ほんっとこの男、どんな街でも平常心ね」

 リラは呆れながらも笑い、二人の後に続くのだった。

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