第三話 乗馬はつらいよ②
ギルドに紹介された厩舎へと向かった三人は馬を二頭手に入れた。シドが一頭、多少経験のあるリラが寅二郎を乗せる形となった。
「リラちゅわん、俺怖い」と言いながらリラにしがみつく。
「うるさい!」寅二郎の顔面にリラの後頭部が刺さった。
朝の光が草原を黄金色に染める。
シドが先頭を取り、未経験者の二人は右手に配置した。
「落ち着け。馬を信じろ。右手綱を少し引いて、脚で圧すんだ!」
リラはぎこちなく手綱を握り、馬が小さくよろめく。
だが馬は理解しているかのように速歩で進む。
「午前は訓練のつもりで構わない。とにかく馬に慣れるんだ」
馬はゆっくりと速歩を続け、草原の小さな起伏を踏み分けながら進む。リラたちの手綱操作に合わせ、シドは指示を出す。
「脚で圧して、落ち着け」「右に寄せろ」
──少しずつ馬と乗り手の呼吸が揃っていく。午前中で約20〜25 kmを進み、馬も人も十分に慣れてきた。
昼前、小高い丘の上で休憩中、シドが指差す。
「見ろ、あのあたりから草の丈が高くなる。いよいよ正念場だ」
人の背丈ほどもある草原が眼前に広がり、静かに波打つのが見える。
速歩で進むことしばらく、ついにその時が来た。
馬が鼻を動かし、耳をピクピクさせている。
風とは逆向きに草の波が揺れた。シドの眉がわずかに動く。
「来たぞ!馬の操作に集中しろ!戦おうとは思うな!」
二頭の行く先から馬への足止めのつもりか雷の魔法や、矢が飛んでくる!
しかも伏兵が掻き分けているのだろう、
草の筋がこちらに向かって這いよって来る!
まるで手に付いた虫が這い上がってくるような悪寒がリラの全身を駆け巡る。
駆けてきた後ろからも薙ぎ倒した草の跡に、ちらちらと伏兵の姿が見える。
どちらが敵の影で、どちらがただの草の揺れなのか、それすら判別できない。
それが恐怖を倍にも三倍にも増幅させる。
「とにかく距離を稼ぐ。速歩からキャンターへ!」
シドが加速し、リラも必死に付いていく。草の隙間から矢が一本飛んでくるが、馬は素早く避ける。
その瞬間、リラがよろめき、
持っていたマーリン宛の密書が落ちそうになる。
「あ、それは」リラが思わず手を伸ばす。その後ろで矢がかすめる音がする。
「危ない!」そんなリラを寅二郎が抱え手綱を握る。
シドがすぐに制御し、指示を出す。
「左にジグザグ、馬を落ち着けろ!」
伏兵は草の筋を辿りながら這い寄るが、馬の速さとジグザグの動きで追いつけない。再び矢が飛ぶが、馬の背に当たることはない。シドは馬の耳や目の動きで伏兵の位置を確認し、最適な方向へ誘導する。
最後の短距離キャンターで加速し、伏兵を振り切った。草原を抜けると、安全地帯が広がる。馬も落ち着き、寅二郎たちも深く息をつく。
「よし……抜けたな」
シドが安堵の息を吐く。草原の向こうに伏兵の影はもう見えない。




