第二話 大将軍はつらいよ②
アムステルドを出てしばらくした軍用街道。
馬上のレオンは風に揺れる黒外套を翻しながら、先頭を静かに駆けていた。
背後には帝国中央軍の精鋭部隊――黒鷲騎兵団。
百騎ほどの兵が、規律正しく蹄音を揃え、砂煙とともに進む。
「将軍、偵察から報告です!」
副長シルバージルが馬を寄せ、小声で続けた。
「前線のコルダ丘陵が突破されました。
魔王軍の“戦鬼部隊”が投入されたとのこと。被害甚大……と」
レオンの眉がわずかに動く。
「……皇帝陛下は、“奪還”をではなく“殲滅を”と命じられたな?」
「はっ!」
レオンは軽くうなずいた。
「よい。予定を早める。全軍、第二の行軍速度へ移行せよ」
号令は瞬く間に伝わり、騎兵たちは一斉に速度を上げた。
帝都から遠ざかるほど、空気は鋭く冷え、土の匂いが戦場の予兆を帯びてくる。
副長がもう一度口を開く。
「将軍……アムステルドでの一件、
処置なされてよろしかったのですか?」
レオンは前だけを見たまま応えた。
「問題ない。あれは“ただの事故”だ。
……そうしておくのが帝国のためであり、陛下のためだ」
その声音には忠誠というより、静かな計算の色が宿っていた。
「しかし――」
「シルバージル。前線で語るべきではない話だ」
「……はっ」
軍勢は丘を越え、視界の先――
黒煙の立つ戦場の空が見え始める。
レオンは腰の剣に手を添え、低く言った。
「ここからだ……黒鷲騎兵団、戦場突入準備!」
蹄音が再び高まり、軍勢は戦場へと雪崩れ込む。
それは、まるでアムステルドでの小さな騒ぎを吹き払うような、
巨大な戦の前触れだった。




