第二話 大将軍はつらいよ①
翌朝、三人はギルドを出て帝都への旅を開始した。
最早見慣れた直線的な造形の建物が並ぶ大通り。中央には馬車用の道路が整備され、両脇の歩道には朝早くから多くの市民が行き来していた。
「勤勉つうのか、こんな朝早くから市民が動き出してるんだなぁ」
「賑やかとは言い難いが、
みな何がしか職に就いているということだな」
「追手の方は、大丈夫なの?」
「ああ、今はあくまで追跡するだけのつもりのようだ」
シドはわざとらしく振り返った。
追手だろう気配も、急ぐでもなく建物の陰に入った。
「どこかで一斉に仕掛けてくるつもりかな」
「近いうちに馬を手に入れて、一気に帝都へ入りたいところだな」
そんな話を交わしているうち、向こうから憲兵隊の騎馬隊がやって来た。
朝から酒が入っているのか、下卑た笑い声が聞こえる。
「わざわざ、姿を見せてやることもない、リラ、こちらへ」
三人が人込みへ身を隠そうとしていたところ、子供が道路へ飛び出した!
ボールを追いかけていて気付かないのか、子供は馬の前に屈みこんでしまった。
「危ない!」
リラは思わず飛び出していた!
子供に覆いかぶさり丸くなる!
ヒヒィン!
馬がいななき立ち上がり、
憲兵隊の一人が落馬してしまった。
「貴様ぁ、何のつもりだ!」
男は立ち上がり叫ぶと、憲兵隊たちはみな馬から降り、リラに迫った。
その瞬間、子供を庇い身を伏せるリラの前に、
寅二郎とシドが立ちはだかっていた。
「貴様らも仲間か!」
「いやあ、子供を庇っただけでしょうが」
「さすがは憲兵隊の皆様、
落馬したそちらの方も大したケガではなさそうで何より」
リラは子供を庇いながら、憲兵隊を睨んでいる。
憲兵隊の隊長格と思しき男がつぶやく。
「貴様ら、どこかで」
「あいつら……探索指示にあった連中に似てねぇか?」
その瞬間、隊員たちに緊張が走る。みな腰の剣に手を添えた。
そして、緊張があたりを包む。
リラと子供は恐怖で固まり、寅二郎たちも身構えた。
市民が叫び方々へ逃げ出し、収拾がつかなくなるだろうというその時、
「静まれ!」
黒の全身鎧に身を包んだ男が、馬上で一喝した。
そしてその場のだれもが動けなくなった。
男は、ゆっくりとその場に馬を進めてくる。
「帝国の治安を預かる憲兵隊が何だこの騒ぎは!」
男は憲兵隊、リラと子供、寅二郎とシドの順に視線を巡らせると、
少し思案を始めた。
「……ふむ、旅人か。妙な身のこなしだが…まぁいい」
そして、再びリラたちに顔を向け、
「この場は、
帝国中央軍大将軍レオン・クラムハルトが預かる!
否やは挟ません!」
「し、しかし将軍」
「黙れ!この場は俺が預かるといったはず。この場では何もなかった。子供には道路へ飛び出すなと説教だ。これで終い。わかったな」
レオンの威厳と迫力に、憲兵隊たちはしぶしぶといった体で巡回に戻った。
「さて」レオンが視線を戻す。
「ありがとうございます」リラが子供と立ち上がり礼を言った。
「なに、俺がいる限り帝国内で騒ぎなど起こさせん、
それだけの事。
そういうことだ、わかったな」
とレオンはリラたちの背後、追手の方を向いて言った。
「くれぐれもその子には飛び出しは危険だと教えておけ」
と言い残しレオンは護衛だろう騎馬隊へと帰って行く。
「将軍!前線より急報。
帝国第七師団、魔王軍との交戦中につき、指揮官の臨場を求むと!」
「……ふん、またか。いいだろう。すぐ発つ」
「おお!さすがレオン大将軍!帝国の守り神!」
「かっけぇ!」
「魔王軍もやっちまえ!」
見ていた市民たちから喝采が上がる。
「け、大層人気者じゃねぇか」
「ああ、すごい人望だが、あの男実力もありそうだ」
二人のそばではリラが、
「ホント、飛び出しは駄目よ!」
「ありがとう、お姉ちゃん」憲兵隊から守った子供を見送っていた。
「レオンの威光が効いているうちに先を急ぐとしようか」
追手の気配を伺いながらも、三人は再び先を急ぐのだった。




