表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第三章 ガルディア帝国編
59/76

第一話 護衛はつらいよ⑤

 シドが胸元をそっと開くと、服の内側が裂かれていた。

 それは“戦い”の傷ではなく、

 明らかに何かを探って切り開いた跡。


「くそ……持ち物を漁られたのか」


 寅二郎が足元を見ると、袋の紐が切断され、中身が散らばっていた。

 財布は無傷。それだけで盗賊ではないと分かる。


「これ……探し物をしてた、って感じだな」

「しかも、リラを狙った連中とは動きが違う」

「別の目的を持ったやつが、裏から入ってきた……ってことか」


 リラが蒼白な顔で部屋の前に立ち尽くす。


「どうして……彼の物を? あの人、一体……何者なの?」


 シドは上客の手から滑り落ちた一枚の紙片を拾い上げる。

 角が破られ、何かの印章だけがかろうじて読める。


 そこには──

 帝国軍の紋章の一部が。


「……やっぱり、普通の客じゃなかったか」


 寅二郎が低く呟く。その場の空気は、血の匂いより冷たかった。

 リラが震える肩を押さえながら、寅二郎とシドは視線を交わす。


「……この騒ぎ、帝国の憲兵隊が黙ってるわけねぇよな」

 寅二郎が眉間に皺を寄せる。


 シドは紙片を指先で弾き、ひらりと返した。

 帝国軍の紋章の“欠けた輪郭”だけが、そこに残っている。


「来る。すぐに。しかも──普通の聞き込みじゃすまないはずだ」


 リラが不安げに顔を上げる。

「憲兵隊が来るって……悪いこと、したわけじゃないのに……」


「リラ、悪いのは店じゃねぇ」

 寅二郎が優しくも低い声で言う。

「ただな。帝国の憲兵隊は、

 こういう“軍人の死”には敏感なんだ。

 しかも、裏で何か隠してる時ほど余計にな」


 シドが上客の死体横に片膝をつき、散らばった中身を順に拾い集める。貨幣袋、手袋、簡素な飯袋――どれも“無事”。あえて避けられた形跡すらある。


「……こいつら、金じゃなく“情報”が目的だった」

 破られた袋から、金属の小さな音が床に転がった。


チャリン。


 シドが拾い上げると、それは“贈り物の一つ”──

 前回、上客がリラに置いていった小さな銀細工の飾りだった。


 だが、裏面が薄くこじ開けられ、内部が精密に探られた痕跡がある。


「……これ、ただのアクセじゃねぇぞ」

 寅二郎も覗き込む。


「中に何か隠してた……もしくは“渡す相手”が別にいたか」


「それを狙ったのが裏口から来た別動隊。

 で、リラを襲った連中はまた別の仕事……ってワケか」

 シドが吐き捨てるように言う。


 リラが不安で声を震わせる。

「私のところに通ってたのは、

 ……その“渡す相手”が私、だったってこと……?」


 寅二郎はそっとリラの肩に手を置いた。

「分からねぇ。ただ、今のまんまじゃ憲兵隊に全部持ってかれる。

 それに、あいつらが本当に“味方”かどうかも怪しすぎる」


 シドは上客の遺体と散らばる荷物をもう一度見回し、低くつぶやく。


「……リラ、悪いけど」

 その声は真剣そのものだった。


「贈り物、全部調べさせてもらう。

 隠し物があるなら、今ここで見つけないとマズい」


 リラは一瞬だけ迷った。

 けれど、蒼白な表情で、ゆっくりとうなずいた。


「……うん。彼が何を抱えてたのか、私も知りたい」


 寅二郎が立ち上がる。

「じゃあ手分けして調べっか。憲兵隊が来る前に、全部洗うぞ」


 シドは最後にもう一度、裏口の暗闇を睨んだ。


「あの別動隊……まだ近くにいる。

 “探し物”が見つかるまで絶対引かないタイプだ」


物語はここから、いよいよ帝国の深部へ潜り込み始める――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ