第一話 護衛はつらいよ④
二人は従業員用の部屋をあてがわれ、
付近の巡回や屋内の点検で日を過ごし、二日経っていた。
その日の夜、ついに受付の老婆から合図が来た。
「噂の上客だ」
シドは屋上へと駆け上がり、寅二郎は老婆の横に立っていた。
男はフードを脱ぎ金貨を差し出した。
「リラを指名で。一晩」
見た目は20代後半、軍人のように鍛えられた体つきをしていたが、頬がこけていた。寅二郎が部屋へと案内する間も一言も発さなかった。
翌朝、まだ日も明けきらない早い時刻に店を出るその男をシドは見逃さなかった。そして、男を見張っている存在も。
(やはりあの男、見張られている!)
シドはどちらか尾行しようかと迷ったが、男が街の人々と溶け込み見張りの気配も消えたため、一息ついた。
「どちらも動きが只者じゃない。対策を見直した方がよさそうだ」
しかし、如何せん情報が少なすぎた。上客にいっそ事情を明かそうかという案も出たが、せっかくの上客の心象が悪くなるとドルドに止められてしまった。
三日に一度はやってきて何かしら贈り物を残して明け方には帰る、を繰り返していたある日の夜。いつものように部屋前で待機していた寅二郎の前で扉がいきなり開け放たれた!
「いいから、来てくれ!」
「痛い!やめて!」
「頼む!事情は必ず話すから!せめて君だけでも」
男がリラを引きずり外へ連れ出そうとしている!
「何やってんだ!てめぇ!」寅二郎が男を殴りつけた。
壁まで吹き飛びうずくまっていた男が叫ぶ。
「奴らが来る!」
ガシャン!
リラの部屋の窓が派手に割れ、黒装束が転がり込んできた。
「きゃぁ!」
叫ぶリラと黒装束の間に、寅二郎が飛び込む。
「何だってんだ!お前らよぉ!」
返答の代わりに短剣が走る。
避ければリラに当たる絶妙すぎる軌道。
「チッ──来いや」
寅二郎はあえて胸を晒して短剣を受け、その握り手ごと鷲掴みにした。
「おおおお!」
そのまま黒装束を床へ叩きつける。
その瞬間──
ドンッ!
建物全体に重い衝撃が走り、天井の飾りが揺れた。
屋上。
「……来たな」
シドの足元がわずかに震えた次の瞬間、
煙の向こうから黒装束の別動隊が三人、一斉に踊りかかってくる。
キィン!
シドはすでに一人目の刃を受け止めていた――。
リラの部屋、黒装束は寅二郎の反撃を食らいながらも、
煙玉で視界を切り裂き、部屋の窓から夜の街へ跳ねるように逃げた。
屋上でも同じ。
シドが二人を追い詰めた瞬間、
黒装束たちは一斉に屋根の影へ散り、姿を消した。
「……逃がしたか」
シドが剣を下ろした、そのとき。
ギィ……
建物の奥、めったに使われない裏口の扉がかすかに揺れた。
「ん?何だ今の音」
寅二郎が眉をひそめ、廊下に走り出す。
シドも階段から合流したそこには。
開け放たれた扉の裏で、上客が壁にもたれかかった姿で死んでいた。




