第一話 護衛はつらいよ②
アムステルドの大通りを一本はずれた細い運河は、黒光りする石畳の橋脚と同じく、街を静かに二分していた。水面は陽光を受けて鈍く反射し、まるで黒い鏡のように建物の影を映している。
両岸の建物は昼でも威圧的で、帝国特有の直線的な造形と重厚な煉瓦壁が並ぶ。黒鉄の窓枠は陽光に冷たく鈍く輝き、窓の赤い装飾ランプや壁面の旗が鮮やかに目を引いた。
運河沿いの酒場や娼館は昼の顔を見せ、商売人や通行人が慌ただしく行き交う。その中に、二人の依頼先となる娼館がひっそりと佇んでいた。
「くうぅ、行くかぁ」
「客じゃないぞ。依頼を受けに来たんだからな!」
シドに首根っこを掴まれたままの姿で中に入ると、少し小さなロビーのような場所に出た。正面にカウンター、右奥に廊下、左には二階への階段。清掃が行き届き、明るく清潔な印象だ。カウンターの中にいたのは受付だろう老婆と用心棒を兼ねた黒服の男だった。こちらを値踏みするように睨んでくる老婆。
「一晩金貨10枚、指名ならもう10枚。ショートなら金貨5枚だよ」
「高い!」
「いや、違う。俺たちは依頼を受けに来た冒険者だ。ドルドって人は?」
シドが慌てて説明すると、
「ふん」と老婆が黒服に顎をしゃくった。
「こっちだ」黒服はそれだけ言い残し奥へと歩き出した。
二人も急いで後を追った。
黒服に連れられ入った部屋は執務室らしく、
物々しい机の向こうからドルドが迎えてくれた。
「いやぁ二人も来てくれるとはありがたい。しかもお二人とも腕が立ちそうだ。
私はドルド、この《クレージーラック》の支配人をしている」
営業スマイルを浮かべているが、黒服もそうだったが歴戦の兵といった風格がにじみ出ていた。
「まだ、依頼内容を詳しく伺っていないのだが」シドが切り出した。
「ふむ、そうだったな」ドルドが視線を送ると、
業務へ戻るためだろう黒服が退席した。
「実は最近、妙な事が続いてね」
「妙な事?」
「ああ、一番人気の嬢に上客がついてね。それ自体は喜ばしいことだが、その頃から不審人物がこちらを見張っていたとか、通いの嬢が尾けられていると言い出したり、裏の勝手口に侵入しようとした跡が見つかったりし始めたんだ」
「確かにいい兆候ではないな」
「しかし、人手も足りなくてね。そこで護衛を雇おうって話になったんだ。この店とその人気嬢の護衛で日当一人金貨1枚、期限はこの騒ぎが収まるまで。何なら犯人逮捕でボーナスだって出そうじゃないか。どうだい?」
「人気嬢の護衛!任せろ!」
肩越しに乗り出さんばかりの寅二郎の顔を押し退けながらシドは尋ねた。
「犯人に心当たりは?」
「その辺りは、本人に聞いてみてくれ。案内しよう。リラの部屋へ」
そう言うとドルドが立ち上がり、三人でリラの部屋へと向かうことになった。
「いやはや、この街は治安維持も軍人がやってくれているんだが、そうなると俺たちのような店はなかなか話も聞いてもらえなくてね」ドルドの愚痴に付き合わされながら、二階の一番奥、大きな扉の前で立ち止まると、
「リラ、ドルドだ。入るぞ」三人は中へと入った。




