第一話 護衛はつらいよ①
荒涼とした大地を抜け、頬をそよぐ風に熱を感じなくなって数日が過ぎた。
「いよいよ、だな」シドが体をほぐしながらつぶやく。
乗合馬車が小休止で停まった小高い丘の上、寅二郎とシドはこれから向かう先を見渡していた。遠くに、ガルディア帝国の西の玄関口、アムステルドの街並みが見える。砂漠王国カルナードやリ・エスティーネ王国から向かう馬車の列も、地平線に沿って連なっていた。
その奥には、街を切り裂くように聳え立つ黒き壁
――帝国の力の象徴“ベルンの壁”。
果てしなく続くその影は、遠景の街並みに圧倒的な存在感を与えていた。
「ベルゼのやつ、必ず見つけ出して決着をつけてやる」
寅二郎の眼差しにいつもと違う光を見たシド。胸の鼓動が一つ跳ねた。
「とにかくまずはアムステルドだっけ。早く街に行きてぇな」
「どうした、今日はやる気じゃないか」息を整えつつシドが返す、が、
「やる気っつうか、限界だな。
早く行こうぜ!……娼館へ」
「は?」
「俺だって男だぜ!足りねぇんだよ!もっこりがぁ!」
「お、お前…」
「むっつりつったって、お前だって男だろ!」寅二郎が振り返り、
「行くぜ!娼館!御者!馬車出せ!全速力だ!」声を張り上げた腹にシドの腹パン一閃!クの字に折れ曲がった寅二郎の首の裏を猫を扱うかのようにつまむと馬車へと放り投げた。
「この馬鹿、ほんとに馬鹿」ため息を付くシド。
「そろそろ行こうか。ただし安全運転でな」
「へーい」御者はシドの顔色を伺いながら、ゆっくりと馬車を出したのだった。
検問所を抜け、馬車と別れた二人はアムステルドのギルドへ向かう。
街の人々は兵を避けながら歩き、各所に兵の詰め所が見える。物々しい雰囲気も、二人には関係ない。
「娼館へ行こうぜ。娼館へよう」
「金も無いくせに、駄々こねるんじゃない。子供かお前は」
「何つうか、静かだな」
ギルドに入った二人があたりを見回すと、冒険者と思われる人々がいることにはいるが、今までの町のような賑やかさが感じられなかった。
「何かあったのか?」シドはギルドの受付に声をかけた。
「いえ、帝国、ガルディア帝国ではこれが当たり前の光景ですよ」
ため息を付きながら受付が教えてくれた。
ガルディア帝国では帝国軍が全土を掌握しており、魔物討伐にも軍が出動する。しかも徴兵制が敷かれており、実力のあるものは、ほぼほぼ軍人として徴用されている。そのため、帝国内では冒険者は“冒険”者とは名ばかりの雑用係とみなされ、討伐任務や戦争時でも臨時の傭兵のような扱いだという。
「それじゃぁ儲かりそうな依頼は無さそうだな」
二人が依頼掲示板を見てみると、
下水道清掃や土木工事の補助などが張り出されていた。
「えーと、何々、し、娼。娼館か、キタ!これだ」
寅二郎が声を上げ、一枚の依頼書をはがした。
「何を見つけたんだ?」シドが取り上げ、内容を確認すると、
娼館の用心棒、採用内容や報酬、期間は要相談。採用係ドルドまで。




