第七話 勇者PT英雄譚を聞く
――王都エルディア、冒険者酒場《マロンの樽》にて
夜の帳が落ち、焚き火のような明かりが酒場を包む。
テーブルの上には飲みかけの蜂蜜酒、焼きたての肉串。
今日も冒険者たちの笑い声が響いていた。
背には古びたリュート、衣は旅塵にまみれ、
けれどその瞳はどこか澄んでいた。
まるで、この世界の出来事を遠くから眺めているかのように。
「――聞けよ、旅人たち。
今宵は遠き異界より来たりし五つの光の物語を」
リュートの弦が、やさしく鳴る。
静まり返った酒場の空気に、音が溶けていく。
「紅は炎、勇気の刃。
蒼は盾、静けき誓い。
金は知恵、空を裂く光。
黒は影、真実を覗く瞳。
白は祈り、死を癒す雪」
その詩が進むにつれて、
あるテーブルの五人が小さく息を呑む。
赤い髪を束ねた少女――神代アンナが、
「ちょ、ちょっと……これ、もしかして私たちのこと……?」
と、アリアたちに向かい囁く。
青髪の聖騎士、三枝アリアは苦笑した。
「噂は早いものだね。まだ牛の魔物を倒したばかりなのに」
金髪の桐生リルルは肘をつき、
「いやー、やっと有名になってきたってことじゃない?
“金の魔導姫”とか、ちょっと響きよくない?」と、にやりと笑う。
黒髪の松風ヤスコはグラスをくるくると回しながら、
「次は『飲みすぎのトレジャーハンター』とか呼ばれなきゃいいけどね」
とぼやく。
そして白髪の少女――汐宮ユキナは、
小さく手を胸に当て、詩の続きを聞いていた。
「五つの魂、光輪を成して天にかかる。
王国はそれを“奇跡”と呼び、
人々はそれを“希望”と呼んだ――」
彼女の瞳に、蝋燭の灯がやさしく揺れる。
「……希望、かぁ」
ユキナがぽつりと呟くと、アンナが肩をすくめた。
「希望なんて柄じゃないけどね。
でも――ま、悪くないかも」
詩人は最後の一節を歌い上げる。
「いまも彼女らは旅の果てにあり、
夜の空に虹をかけるという。」
静寂のあと、酒場に拍手が広がった。
詩を終えた吟遊詩人は軽く一礼する。
フードの影から、わずかに尖った耳が覗いた気がしたが、
誰もそれを確かめる者はいなかった。
アンナたちは顔を見合わせ、苦笑しながらグラスを掲げる。
「――私たちの旅、まだ始まったばかりだもんね」
その夜、五色の髪がランプの光に照らされ、
まるで本当に光輪のように輝いて見えたという。




