第六話 蟻地獄はつらいよ③
「ハルト!縄を固定したい、手を貸してくれ!」
シドが飲み込まれていく縄を掴み叫ぶ。
「クローブ!」ハルトが叫び、「おう」クローブが応える。
「……ここじゃな。岩よ!」クローブが叫ぶと地中から岩が飛び出した。
「ここへ結んでくれ!」スピードも叫ぶと、
シドの縄の端を掴み、その岩に括り付ける。
次々と飲み込まれていく縄の先、その一点を皆見つめている。
(トラジロウ、合図を寄越せよ)縄を掴みシドは祈るように眺め続けた。
一方、穴へと落ちた寅二郎。
身体にまとわりつく砂が、いきなり軽くなった。
「おわ!」寅二郎は空洞となった蟻地獄の底へと降り立っていた。
建物の三階程の高さがある空洞で、傍にダリヤを見つけた。彼女は着地に失敗したらしく足に治癒魔法を施しているところだった。
「ダリヤ!無事か?」寅二郎が傍に走り寄る。
「ええ、なんとか」ダリヤも治療を終え、立ち上がった。
そして二人はその音を聞いた。
くぐもった、何か水が抜けていくようなズズズという音。
二人が振り返るとそこにはそれがいた。
キラーアントだ。
寅二郎の倍はあろうかという巨体。巨大な鎌を構えている。
「でけえな」寅二郎が息を呑む。
顎の部分には被害にあった馬車だろう切れ端が張り付いている。先ほどの音はそこから響いている。ダラダラと何かが垂れる。粘性が高いせいか、ぼたりと落ちた先でゆっくりと広がっていく。
「手ぐすね引いて待ってたって顔か、意地悪いな」
そう言いながら寅二郎はダリヤの前に立ち、縄を引く。
「来たぞ!」蟻地獄の上ではシドが寅二郎の合図を確認した。
「悪いが、ここで店じまいだ」
穴の底で寅二郎が言うと、
ズボっという音と共にシドと《故郷の四枚札》メンバーが降り立った。
ギギイィ!と叫びのような音を立て、キラーアントが動き出す。
「あいつ、口から粘液を吐くぞ!」そう言い寅二郎がダリヤを下げさせる。
「了解!」ハルトが盾を構え先頭に立つ。
「天穹を裂く雷霆よ、嵐を司る精霊の力よ」
その後ろではクローブが詠唱を開始した。
スピードは遠回りに距離を取り、隙を狙って走り続ける。
「一瞬にして走り、触れたものを穿ち、焦がし、破壊する白き閃光の法則よ」
クローブの詠唱に反応し、持った杖が光り出す。
ギギイィ!再びキラーアントが音を立て鎌を振り上げる。
「ダリヤ!あんたの出番だろ!」寅二郎がダリヤの肩を叩く。
「ええ!」ダリヤがハルトに向かって走り出し、詠唱を開始する。
シドが、スピードが、違う方向から短剣を投擲する。
目を狙うその短剣をキラーアントが嫌い、鎌で叩き落す。
その瞬間、ハルトの身に光が注ぐ。「《サンクチュアリ・シールド》!」
ダリヤの防御魔法だ。
「今だ!」ハルトが盾を構えたまま突進し、キラーアントの腹に剣を突き刺す。
ギヤアアっとハルトを見下ろすキラーアントの顔に、
「我が敵を一直線に貫き、その命脈を断ち切れ!《サンダー・ボルト》!」
クローブの雷魔法が突き刺さり、その顔を消し飛ばした。
断末魔の一撃か、キラーアントの鎌が振り下ろされるその瞬間。
「往生際が悪いんだよ。しつこい男はモテないぜ!」
寅二郎が飛び込み、関節を狙った一撃が、その鎌を切り飛ばしていた。
――静かになったその空洞で、シドやスピードが偵察から帰ってきた。
「だいぶ奥まで探ったが、クイーンはいないようだ」
「わかった。皆一度外へ出よう」ハルトのセリフで皆、縄を伝い外へと這い出た。
「ギルドへは俺たちが報告へ行こう。二人はどうする?」ハルトが問い、
「俺たちは帝国に用があってな。ここで別れよう」シドが答えるが、
「クイーンはどうする?ここにはいなかったが」と続けた。
ハルトは《故郷の四枚札》のメンバーたちを見回し、
「キラークイーンは俺たちが追う。まぁ今度は気長にやるさ」
晴れやかな表情でハルトは言い、そのハルトの顔を嬉しそうにダリヤが眺める。
そのダリヤの横顔を、苦笑いで見つめた寅二郎が呟いた。
「ちぇ……ダリヤ、いい表情だぜ」
そうして寅二郎たちは乗合馬車に戻り、馬車は走り出す。
《故郷の四枚札》の乗る馬車はその反対側へと。
(いつかまた)皆、胸にその思いを抱いて――。




