第六話 蟻地獄はつらいよ②
「俺たちはカルナードで、
馬車が行方不明になる原因を究明する依頼を受けている。
それで馬車を購入しこの辺りを調べていたんだ。そうしたらこの蟻地獄さ」
「キラーアントだと言う根拠は?」シドが尋ねた。
「幾つか馬車の消えた現場を見てきた。
皆同じような窪地となっていたが、砂の流れが止まっていた。
しかしここは流れている。地下の穴へと吸い込まれているんだ」
「それだけでは根拠は薄くないか?」
「ああ、だから正直迷っていてね。確証が欲しいところだが……。
それをさっきも相談していた所だ」
「それでハルトが飛び込んでみよう!って」
今までずっと黙って話を聞いていたダリヤが叫んだ。
「まだ相手も確定していないのに。無茶だって言ってるのに」
「しかし、放置することも出来ない。
まだキラーアントだけならいいが、クイーンだっている可能性もある」
――キラークイーン。巨大な蟻型の魔物のボス。地中を掘り進むアントたちを生み出す。キラーアントはその先兵だ。魔王軍にも与しない、自然発生の災害のようなものだ。
「でも……」ダリヤは、か細い声となり下を向く。
「俺だってこの身一つで飛び込むつもりじゃない。
あのロープで縛っておいて後から引き揚げてもらおうか、ってね」
馬車の荷台には確かにロープが見えた。ぐるぐる巻きで長さが分かりにくい。
「足りるのか?」ダリヤの姿を見つめながら寅二郎は言った。
「わからない。だがどこかで決断するべき時がある。それが今だろ?」
ハルトと寅二郎が睨みあう。
「おいおい」
「お前らで言い争ってどうする」
「そう結論をあせるでない」
シドや《故郷の四枚札》のメンバーが割って入り、皆沈黙する。
「おい、何だか蟻地獄が広がってないか。馬車を移動させよう」
シドが指差す先、確かに馬車の傍まで流れが来ている。
「それにもう夕刻だ。今日は中止にしよう」
シドの提案で馬車を移動し、野営をすることになった。
焚火を中心に皆、輪となって食事をとっている。
湯気の立つ飲み物に息を吹きかけ、ダリヤが話始めた。
「私たち元々は別々の冒険者PTだったんです。
でも皆解散とかいろいろあって。そんな時集まったのが今の私たち。
聞けば同じ故郷出身だったんです。こんな偶然あるんですね」
微笑むダリヤにシドが応える。
「それで《故郷の四枚札》、か」
「ああ、それがA級までやってこれたんだから、すごいよな」
ハルトも微笑み、スピードやクローブ、メンバーたちも嬉しそうに目を瞑る。
「昼も言ったが、それでも犯すべき危険だと俺は考える。
明日の朝にはあそこへ突入する。それじゃあな」
そう言ってハルトたち、
《故郷の四枚札》メンバーが眠りにつこうと馬車へと消えた。
残ったのは、ダリヤと寅二郎とシドだった。
「いいのか?」寅二郎がダリヤに語り掛けた。
ダリヤは持っていたコップを両手で握りしめた。そして叫ぶ。
「よくない!ハルトはいつも無茶して。A級だから何だって言うの……」
消え入るような声で下を向くダリヤ。その目には涙が溢れる。
寅二郎やシドは何も言えず、ダリヤと共に朝までそこにいたのだった。
そして朝を迎えた。
《故郷の四枚札》のメンバーが起き出してきた。
「何だ、朝まで起きていたのか」ハルトが声をかける。
「ああ、眠れなくてな」寅二郎が立ち上がり背伸びをする。
「悪いが、突入はこちらがする。君たちは補助として待機していて欲しい」
ハルトはそう言い、メンバーを見渡す。
「行けるな?」その声にメンバーが首を縦に振る。
「では、ダリヤ、縄を取ってくれ」
ハルトの声にダリヤが馬車へと近づいたその時。ダリヤが足を滑らせる。
なんと蟻地獄が馬車のすぐ傍まで広がっていたのだ。
「きゃぁ!」叫びと共にダリヤが蟻地獄へと落ちてしまった。
どんどん中心に飲み込まれるダリヤ。
「ダリヤ!」ハルトが叫び、皆ダリヤを見つけようと顔を向けた瞬間。
「シド!」寅二郎は叫び、縄を掴むとシドと視線を合わせる。
「もっこりは命懸けだな、おい」苦笑いを浮かべる寅二郎。
そして、シドと頷きあうと、
寅二郎は縄の端を持ったまま蟻地獄へ飛び込んだ。




