第六話 蟻地獄はつらいよ①
帝国製だという魔道具を使う盗賊団を捕まえ、寅二郎たちは再び帝国方面への乗合馬車に揺られていた。朝早く出発したにもかかわらず、馬車内はすでに熱気が籠っていた。
「うぇぇ、暑いな。暑さ対策はしてあるんだろ?この馬車」
「そこらに冷気を出す魔道具が設置してあるが、正直気休めだな」
二人は、頬を伝う汗を拭いながらため息をつく。
寅二郎が立ち上がり御者へ声をかける。
「おい、もっとスピード上げてくれよ。とっとと街へ行こうぜ!」
その瞬間、乗合馬車が急停車した。
「おいおい、何だよ」寅二郎が慌て、
「ありゃなんだ!」御者が声を上げた。
「!?」「何だってんだ?……あれは」
寅二郎たちは幌から顔を出し、前方の光景に絶句する。
見ると、馬車の前方に広がる砂漠。その砂漠に渦巻く蟻地獄が見えた。
そして蟻地獄の縁に馬車が停車しているのも見える。
「あれ、やばくねぇか?」
「あの停め方、むしろ蟻地獄を調べているようにも見えるが……」
寅二郎たちは御者に距離を取るよう指示した。
「俺たちがあれを調べてくるから、待っててくれないか」
「放っといて馬車ごと飲まれたら目も当てられない、だろ?」
シドが御者を説得し、二人は蟻地獄傍の馬車へと近寄っていった。
近づいてみると、馬車の陰に4人組の男女が見えた。
「おい、あんたら無事か」寅二郎が声をかける。
4人は冒険者の様だ。全身鎧のリーダー格。軽鎧の斥候役。ローブ姿の魔法使い。そして回復役だろう女性が見えた。彼らは蟻地獄の中心を見ながら何やら話し込んでいた。
寅二郎たちが近づいてきたのに気付いたのか、振り返る。
「ああこちらは大丈夫だ。私たちは《故郷の四枚札》、A級冒険者だ」
やはり全身鎧が代表して応えた。
「私はリーダーのハルト。こちらは斥候役のスピード、魔法アタッカーのクローブ、そして回復と補助役のダリヤ。そちらは?身のこなしは冒険者のようだが」
「ああ、俺たちも冒険者だ。俺はシド。そして……」
シドが振り返ると寅二郎が鼻の穴を広げていた。
「おお!もっこりヒーラー!」すかさず、
「痛っ!」寅二郎はシドに鼻先を叩かれていた。
「こいつはトラジロウ。怪しい者じゃない。
……とはとても言えないが何が起きてる?」
「ああ、それがな……」
ハルトは寅二郎の奇行は見て見ぬふりで蟻地獄を振り返る。
「どうやらあそこにキラーアントがいるようだ。見過ごすわけにはいかん」
皆目を向ける蟻地獄の中心に向かい、砂が流れる音だけが聞こえてくる。
その流れは、少しずつ速くなっていた。




