第五話 砂嵐はつらいよ②
砂だらけの旅路のあと、簡易宿の部屋はやけに静かだった。
夜風だけが薄いカーテンを揺らしている。
寅二郎はというと、
「うひょ〜、湯だ湯だぁ!」
と、鼻歌交じりに風呂へ突撃していき、
シドだけが窓辺に残っていた。
シドの頭の中には、
先ほどの世紀末モヒカン軍団が残した言葉がこびりついていた。
(“帝国産の魔道具”……相当高度なやつだよな。
盗賊ごときが扱える代物じゃない)
腕を組んで考え込む。
(横流し…いや大量に渡ってる可能性もある。帝国で何が——)
「シーーーッドーーー!!」
突然、部屋の外から寅二郎の叫び声。
「なんだよ、今度は……」
しぶしぶ扉を開くと、
そこには腰にタオル一枚巻いた寅二郎が仁王立ちしていた。
「聞いてくれ!ボディソープが……バニラの香りなんだが!!」
「だからなんだよ!!」
「お前に合うんじゃないかと思ってな!ほら、ほら嗅いでみろよ!」
タオルの端をひらひらさせながら近づく寅二郎を、
シドは魔法より速いスピードで扉を閉めて遮断した。
ドンッ!寅二郎の顔面に扉がクリーンヒットしていた。
「いってぇ!?何すんだよ!」
「こっちにも考えることがあんだよ!帝国が危ないかもしれないんだぞ…!」
「危ないのは俺の鼻だよ!甘すぎて頭痛ぇ!」
「知るか!バカ」
シドは深いため息をつき、
再び窓の外へ視線を向けた。
砂の丘を撫でる夜風は冷たく、どこか不吉だ。
(……魔道具が盗賊に渡ってる。帝国、何かでかい動きがある)
静かに目を細めたその時。
扉の向こうから、寅二郎のか細い声が聞こえた。
「……あの、シド。タオル落としたから拾ってくれない?」
「二度と開けねぇからな」
シドはもう一度ため息をつきつつ、
胸の奥のざわつきだけは消えなかった。




