第二話 一人はつらいよ③
ギルドの依頼をこなして一週間ほど経過していた。
「ふいー、異世界召喚されて初めて覚えた呪文が清潔魔法とはな。
我ながらなんだかなぁって感じだ」
無一文の寅二郎が肉体労働で稼ぐ日銭で泊まれる宿など風呂はついていない。
3日もすれば周りから苦情が来るほど異臭を放ち、親方から習ったのが清潔魔法だった。
「しかしこっちじゃみんな当たり前に魔法を使うんだな。
生活魔法っつったか、いろいろあるし便利だな。
ま、そんなことより風呂だ、風呂!」
労働→酒盛り→宿で爆睡、を繰り返していたが大浴場の話を聞きつけ、
今日は早速行ってみようということになった。
「便利とはいえやっぱり湯船につかりたいもんだ」
鼻歌まじりで歩いていた寅二郎だが、ふと路地裏に道を逸れた。
「なんか用か?」と振り返ると、一人後ろに立っていた。
「お前がトラジロウか?」背丈は寅二郎と同じくらい。垂れ下がった黒い前髪の間から眼光鋭くこちらを睨んでいるが中性的な綺麗な顔立ち。マダムあたりにはさぞモテそうだ。
「確かに寅二郎だが何か用かと聞いている」
「俺とPTを組まないか?俺の名はシド。
ちょいと事情があって俺も組む相手がいなくてね。
噂の勇者様なら組んでもらえそうだと声をかけたんだ」
「ふむ」寅二郎はシドと名乗った人物を見つめると、
「むっつりだな」
「は?」
「よほど酷い性癖を持っているんだな。
その顔でPTが組めないとは、かわいそうに」
「せいへ、き。馬鹿!そんなんじゃない!
俺は今LV30、お前に戦闘を教えてやることも出来る!どうなんだ!?」
この間、ずっとシドの瞳を見続けていた寅二郎だったが、
「お前、さてはお人好しだな。
俺はもっこりちゃんとしかPTを組む気は無かったが」
シドに近づきながら右手を差し出すと、
「お人好しも嫌いじゃないぜ」と微笑みかけた。
「ホントに噂通りの男だな。その一言いらんだろ」
あきれつつもシドは寅二郎の右手を取った。
「さっそく明日の朝ギルドで集合、訓練がてらに討伐依頼をこなすぞ」
シドはそう言い残し帰っていった。
「よーし、ひとっ風呂浴びて気合い入れてくか!」
今日こそはと銭湯へ向かう途中、古びた木製看板が目に止まった。
《武器・防具 ドワーフ工房バルド》
入り口の前には冒険者が使い込んだ武器がずらりと立てかけられ、ちょっとした鉄と油の匂いが風に混ざって漂ってくる。
――そうだ。
明日討伐に行くなら、せめて“それっぽい装備”があった方がいい。
ゲーム脳どころか、男のロマンがむくむくと頭をもたげる。
「……風呂の前に、ちょっと寄り道するか」
寅二郎は吸い寄せられるように、武器屋の扉を押し開けた




