第三話 マダム救助はつらいよ③
道すがら三人はお互いの話をした。彼女の名前がグレースということ。彼女が帝国方面の町まで買い出しに行っていたこと。寅二郎とシドは冒険者で帝国方面へ旅をしていること。彼女はとても聞き上手で、普段あまり他人と関わろうとしないシドですら会話に参加し楽し気な道行きであった。
「着いたよ。ここが私の家さ」
谷あいの小さな村の中央にあるこじんまりした教会の前で馬車は止まった。その途端、教会の扉が開き、中から10人ほどの子供たちが飛び出してきた。
「ママ!おかえり」
「ママ、遅かったね」
「ママ、心配したんだから!」
口々に声を上げる子供たち。
「ママぁ?」困惑する寅二郎。
「なるほど、グレース。あなたは聖ローマン教の司祭様なのですね」
と、シドが微笑む。
「ええ、だから私の心は女神さまとこの子たちのものなの。
ごめんね、トラジロウ、もっこりできなくて」
と、グレースが笑うと、
「このおじさんたち、誰?」「もっこりってなに?」
子供たちの興味が寅二郎たちに移り、もみくちゃにされた。
「だぁ、止めろ!」
「短剣に触るな!危険だろ!」
「これだから、俺は子供が嫌いなんだ!
やっぱり俺にはもっこりちゃんしかいねぇ」
「お前の頭は子供以下だな」シドがため息を付くと、
「さあみんな、夕食にするよ」
グレースの号令の下、みんなで馬車から荷下ろしをはじめ、夕食となった。
ギルドや酒場とはまた違うにぎやかな食事が済むと子供たちは眠りについた。
「あの子たちはたいてい帝国の孤児なのさ」
その夜、グレースが悲し気に話し始めた。
魔王軍との戦乱、軍による粛清、スラム街での貧困など様々な理由で孤児が増え続けているのだという。
「最近、特にきな臭いらしくて帝都から人々が逃げ出しているらしいよ」
「それでもあんたたちは帝国へ行くのかい?」
「ああ」
「決着をつけたいヤツがいるはずなんでね」
寅二郎の瞳に決意の炎を見たグレースは、
「そうかい、ならせめてあんたたちに女神の加護のあらんことを」
と、二人に祈りを捧げた。
翌朝、出立する二人のためにグレース以下子供たち総出で見送りに出てくれた。
「もし、帝国の内情を詳しく知りたいなら帝都の大司教、マーリンってのを訪ねてみな。私の名前を出してくれれば多少は力を貸してくれるはずさ」
「助かる」
「じゃ行こうか、次なるもっこりちゃん探し!」
昨夜聞いた帝国の不穏な噂などどこ吹く風、
相も変わらず寅二郎は元気よく歩き出すのだった。




