第二話 もっこりヴィランはつらいよ①
リーネの踊りに後ろ髪を引かれながらも、帝国目指して乗合馬車に乗る寅二郎たち。焼けるような風が馬車の幌を揺らし、容赦なく太陽が照り付ける。カルナード特製の耐暑装備でも防ぎきれない暑さに乗合馬車に乗る人々も口数は少ない。
昼前にようやくオアシスへとたどり着き、
明日の移動先を確認していたシドから声が上がる。
「どういうことだ?地図によれば次のオアシスはそこじゃないだろう?」
広げられた地図には帝国方面の直線上に次のオアシスがある。しかし御者はそこは使わずに迂回ルートを使うというのだ。それでは随分遠回りになってしまう。
「最近、そこのオアシスは“砂漠の女豹”って盗賊団に乗っ取られちまいまして」
ゾルダという女盗賊が頭を務める盗賊団で、捕縛に動いたカルナードの部隊が返り討ちにあった。それからそのオアシスは無法地帯と化して、商人たちは近寄らないのだという。
それまで黙って聞いていた寅二郎が、声を上げる。
「女盗賊!?それはいかんな!我々で砂漠の安心を守らねば!」
「本音は?」
「女盗賊にもっこりお仕置き……グフフ」
ガンッ!
「あ痛ぁ!」シドから短剣の鞘で眉間を殴られた。
「まぁいい。実際皆困っているだろう。調べてみるから時間をくれないか」
御者と相談した結果、期限は三日後の朝。今晩馬車で近くまで乗せてもらい、三日後の朝までに合図がなければ寅二郎たちを置いて迂回ルートで出発することになった。
「懸賞金がかかってるような相手ですよ?大丈夫ですかい?」
「まぁ調べてみないとわからんな」
二人の会話も上の空、寅二郎はぶつぶつ言っていた。
「ああして、こうしてぇ…グフフ」
その日の夜、月明かりのみの砂漠はむしろ肌寒い程だった。件のオアシスの近くで馬車は停まると寅二郎とシドが降りた。御者に迷惑料だと金貨を渡すと二人を置いて帰って行った。
「さて」シドは近くに手ごろな岩を見つけると飛び乗り観察を開始した。
箱のような簡素な建物が幾つか建っており、所々まだ明かりが点いていた。
「出歩く者はいないようだ。見張りがいる建物は奥のアレだけだな」
水辺に建つ二階建ての建物。もとは集会所だろうか。
松明を持って立つ二人の男が見えた。
シドの持つ魔力探査機に反応無し、結界なども無さそうだ。
「各個撃破で最後に集会所。今晩中に片をつけるぞ」
「おう、任せろ」二人のオアシス奪還作戦が静かに開始された。




