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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第二章 砂漠の王国カルナード編
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第一話 暑くてつらいよ④

 朝。

 砂漠の太陽が王都カルナードの屋根を白く焼いていた。


 宿屋の二階。

 ベッドの上で寅二郎は大の字になって寝ていた。

 床に転がる酒瓶、机の上には焼け焦げた串。

 昨夜の熱気と笑い声の残り香がまだ漂っている。


「……よく寝る男だな」

 シドは窓を開け、乾いた風を入れた。

 砂が少し舞い込む。カーテンの隙間から光が射し込んだ。


 手帳を開きながら、彼女はつぶやく。

「やはり、あれは呪物による魅了……首飾りの反応、間違いない。

 でも、なぜ彼だけ効かなかった……?」


 筆が止まる。

 目の前の男は、いびきをかいている。

 昨夜、あの会場で唯一、魅了を受けなかった人間。


 思考を整理するように、シドは指で机を叩いた。


「考えられるのは、二つ……」

 一つは、転生者特有の“耐性”。

 異世界に来た時に与えられる恩寵か、ステータス外の補正。


「精神干渉に対する訓練を受けた私にまで、届いたのに」

 彼女はあの瞬間を思い出す。

 リーネの舞、香の匂い、月の光、あの恍惚。

 ほんの一瞬、意識が溶けかけた。

 寅二郎の叫び声がなければ、危なかった。


 もう一つの可能性。

 ――“意志”による拒絶。

 つまり、魅了を上回る心の力。

 守るもの、譲れないものがある者だけが、呪いをはね返す。


「でも……あいつのどこにそんな強い意志が?」

 視線の先で、寅二郎が寝返りをうつ。

 シャツの袖がめくれ、鍛えられた腕がのぞく。


 シドは小さく息を吐く。

「――わからない。だが、このまま調べずに放っておくのは危険だ」


 彼女はコートを羽織り、腰の小剣を確かめた。

 書きかけのメモに一文を残す。


《リーネ=呪物の保持者。接触して確認要。》


「トラジロウ、起きろ!外へ行くぞ」

「……うるせぇ、あと五分」

「五分経ったらリーネの踊り、見られないぞ?」

「……行く!」


 即座に起き上がる男に、シドは半ば呆れたように笑った。

 けれどその笑みの奥に、ほんの少しの警戒と興味が混じっている。


 ――この男の“抗体”の正体。

 それを知る鍵は、きっとリーネの瞳の奥にある。


 砂の街のざわめきが、二人を飲み込んでいった。


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