第一話 暑くてつらいよ③
その頃――
カルナード郊外、地下遺跡の最深部。
「ベルゼ閣下! お戻りでしたか! その傷は……!?」
「うるせぇ、報告しろ」
玉座のような岩に腰を下ろし、ベルゼは不機嫌そうに翼を広げた。
黒き羽根の一部がまだ焦げている。
「呪物による篭絡作戦は順調……
と言いたいところですが、
適合者が少なく進捗は芳しくありません」
「だろうな」
ベルゼは舌打ちをした。
「まったく、くだらねぇ。
人間の女どもを籠絡して“国”を落とす? 俺には合わねぇ。
だが――“あの人間”だけは、気になる」
「……あの、トラジロウとかいう?」
「そうだ。守るために動く、その力
……戦う理由が“自分以外”にある奴。あれは強い」
沈黙の後、ベルゼは笑った。
「まぁいい。傷が癒えるまで暇つぶしだ。
――リーネ、だったか。面白い玩具を使ってるじゃねぇか」
部下が慌てて報告書を差し出す。
「はっ。リーネは現地人ですが、かつて奴隷として我々に捕らえられ、
呪物との親和性が高いことが判明しました。現在、篭絡計画の中核に」
「なるほどな。あの瞳――“呪い”の光か」
ベルゼは立ち上がり、闇の先に何かを見ていた。
「さて……“守る男”と“呪われた女”。
どっちが先に壊れるか――見ものだな」
それは寅二郎の生か死か。
その笑みは、もはやかつての獣じみた戦闘狂ではなかった。
理性を取り戻した悪魔の微笑みだった。




