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異世界はつらいよ~転生勇者放浪記~  作者: 花京
第一章 リ・エスティーネ王国編
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第九話 勇者PTギルドに報告に行く

――王都・冒険者ギルド。

 ベルゼ急襲の傷跡も癒え、リ・エスティーネ王国には活気が戻っていた。街中にも笑顔が溢れ、通りでは人々がごった返していた。

 昼下がりのギルドは、冒険者たちの喧噪で満ちていた。

 酒の匂いと獣脂の臭いが混じる広いホール。壁には依頼票がびっしりと貼られ、出入りする冒険者が絶えない。


 その中を、五人の少女が土埃まみれの姿で歩いてくる。

 少し日焼けした顔、磨かれた剣、使い慣れたローブ。

 初陣の頃の“頼りなさ”は、もうそこにはなかった。


「おつかれさま〜。今日も無事に帰ってきたわね、アンナちゃんたち!」

 カウンターの向こうで手を振るのは、ギルド受付のマロン。

 栗色の髪を後ろで束ね、気さくで世話焼きな彼女は、

 この王都ギルドの名物職員だった。


「はい! 無事に、“牛”を倒してきました!」

 アンナが胸を張って報告する。

 肩には傷がひとつ。血の滲む包帯を気にせず笑った。


「“牛”って……グレートバイソンのこと? あの巨大なやつ?」

 マロンの手が止まる。

 隣で書類を整理していた別の職員が思わず顔を上げた。


「うん、あれ、でっかくて角が二本。突進力がすごくて……!」

 リルルが手振りで説明する。

 火球で牽制し、アリアとアンナが左右から斬り込み、

 ヤスコが投げた焙烙玉で止めを刺した――完璧な連携だった。


「ほう……ちょっと見直したわね。報酬は“Cランク”基準、討伐証明も完璧。

 ……ねぇ、アンナちゃん、本気で冒険者続ける気?」


「えっ、もちろん!」

 アンナが食い気味に答える。

「勇者PTだって、食っていかなきゃ生きてけないんだもん!」


 ヤスコが苦笑する。

「アンナ、もうちょっと言葉を選ぼうね。“勇者”が聞いて呆れる。」


「いいのいいの!」

 マロンが肩をすくめて笑う。

「勇者も聖女も、腹は減るのよ。あんたたちはよくやってるわ。」


 アリアは報告書に署名しながら、少しだけ真顔で尋ねた。

「マロンさん。最近、“バイソン”みたいな魔物が王都近くに増えてるって

 ……本当ですか?」


 マロンの笑みが、ほんの一瞬だけ陰る。

「ええ、そうなのよ。

 南街道の方で“地割れ”が頻発しててね。

 地下に眠ってた魔物が、地上に出てきてるって話。」


「地割れ……?」

 ユキナが不安そうに顔を上げた。

「まるで、何かが……“目覚めてる”みたい。」


 マロンは小さく頷く。

「ギルドの上はまだ正式には発表してないけど、何か起きてるのは確か。

 だから、油断しないで。特に、あんたたちみたいな若い子は。」


 彼女の声は優しく、それでいて母親のように厳しかった。


「……わかりました。次も気をつけます。」

 アリアが一礼し、アンナたちも頭を下げる。

 報酬袋を受け取る手が、少しだけ誇らしげだった。


「はい、五人で銀貨二十枚。ちゃんと分けなさいよ?」

「やったー! 今夜はパンじゃなくてシチューにしよう!」

 リルルが飛び跳ね、アンナも微笑み、

「何なら、お肉も入れちゃう?」

 そのセリフに、ヤスコがため息をつく。

「……はいはい。アンナの食欲、いつになったら落ち着くのやら。」


 そのやり取りに、マロンは笑いながら書類を束ねた。

 しかし、ふと窓の外に目をやると、その笑みが消える。


 王都の空。遠くの地平に、黒い雲がわずかに渦を巻いていた。


ギルド裏口にて――


 日暮れの風が冷たかった。

 街の喧騒を背に、アンナは小さく拳を握る。


「ねぇ……なんか、また変になってきてない? この国。」


「気のせいじゃないわ。」アリアが静かに答える。

「でも、それを確かめるのが、私たちの“今”の仕事よ。」


 ユキナが小さく頷いた。

「誰かが見てくれてる。きっと、ライネル副長も。」


 リルルが空を見上げて呟く。

「……だったら、次はもっとすごいの倒そうよ。

今度は“本物の冒険者”って呼ばれるくらい!」


 アンナが笑う。

「上等! 勇者パーティ、出陣の準備しとけー!」


 笑い声が夕暮れに響き、五つの影が石畳に並ぶ。

 その背中には、まだ小さいながらも確かな成長の光があった。

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