第八話 ダンジョンはつらいよ④
地上に戻った三人は、冒険者たちの歓声に迎えられた。
夕焼けが砂塵を金色に染め、露店の酒場からは香ばしい肉の匂いが漂う。
「くぅ〜〜っ、生きて帰って飲む酒は格別だな!」
寅二郎は杯を掲げ、一気に飲み干した。
隣ではフジコが笑いながら、自分の杯を軽く合わせる。
「おつかれさま、勇敢なお兄さんたち」
「勇敢というより、無鉄砲だっただけだ」
シドがぼやきながらも、どこか楽しげだった。
焚き火の赤い光の中、三人の影が揺れる。
戦いの緊張も、地下の冷気も、いまはただ遠い夢のようだ。
「なぁフジコ、あの髪飾り……」
「ん? あぁ、あれね。ちょっと預かってるだけ。あとで鑑定に出してみるわ」
「おぉ、そりゃ頼もしい! なんてったって“ロマンの証”だもんな!」
「ふふ、ロマンね。いい言葉だわ」
夜が更け、笑い声が途切れた頃。
フジコは小さく伸びをして、空を見上げた。
「……今夜はいい月ね。少し、外の風に当たってくるわ」
そう言い残して、彼女は静かに立ち去った。
――それが、彼女を見た最後だった。
翌朝。
眩しい日差しに目を細めながら、寅二郎は宿のベッドから身を起こした。
机の上に、見慣れない封筒が一つ置かれている。
開くと、花の香りと共に短い一文。
「またどこかでね♡」
そして、鮮やかなキスマーク。
「……あのおんな、逃げやがったな」
寅二郎が頭をかきながら笑う。
「ま、いっか。また会うさ。なんせ“ロマンの女”だからな!」
シドは黙ってその手紙を手に取り、紙の質を確かめた。
触れた瞬間、目がわずかに細まる。
(……この紙、帝国製か。やはり、そういうことか)
シドは封を丁寧に折り畳み、懐にしまった。
そして、まだ夢の中にいる寅二郎を横目に呟く。
「またどこかで、ね……そう遠くない気がするな」
窓の外では朝日が昇り、遠くで冒険者たちの喧騒が聞こえた。
新しい一日の始まり――
そして、知らぬ間に始まっていた“帝国の影”の物語。




