第八話ダンジョンはつらいよ③
浅層を抜け、長い階段を下りる。
空気はさらに冷たく、息が白くなった。
壁に刻まれた古代文字が、
薄青い光を放ち、ゆらゆらと彼らを導くように揺れている。
「ここからが本番だな……」
シドが肩を回す。
寅二郎は松明を持ち直しながら、軽口を叩いた。
「なあ、ダンジョンってのはもっとこう、
宝箱とか、温泉とかあるもんじゃねえの?」
「ねぇよそんな観光地みたいな構造!」
「あるかもよ?」
フジコが振り返る。
「古代カルナード式の墳墓には“生者の回廊”って呼ばれる区画があるの。
侵入者を試すため、死者の記憶を幻として見せる……」
「……おい、それホラーじゃねぇか」
「ふふ、怖いの?」
「こ、怖くねぇよ! ちょっとゾクッとしただけだ!」
軽口の裏で、三人の表情には緊張が走っていた。
この空間そのものが、生きているような圧を放っている。
やがて、石造りの回廊が開け、広間に出る。
中央には黒い祭壇。
その祭壇の上には赤黒く脈打つような光球が浮かんでいた。
「これがコアか、ならここが最深部だな」シドが祭壇を調べながら言った。
「なら、私の出番ね」
フジコも祭壇に近寄ると、そこに掘られた石板に指を這わせた。
「ここを、こうすれば」その瞬間、
ガコンッ!
祭壇の裏側にさらに地下へと続く階段が現れた。
「まさか!本当にあったのか」
「隠し部屋ってやつか」
「地図にはどこにもそんな情報は!」
「フフフ、情報は私の武器だと言ったでしょ?」
(カルナード王国に管理されているはずなのにあり得ない。
もしや帝国から?あるいはダンジョンという性質からすればまさか魔王軍?
いずれにせよこの女、やばい)
そんなシドの心配をよそに寅二郎は肩を回しながら、笑い出した。
「行くしかねぇだろ?楽しくなってきやがった」
「何が出るかしらね。フフフ」二人は階段へと向かう。
シドも二人に続いたが、その顔には困惑の表情が浮かんでいた。
隠し部屋へと降り立った3人。先ほどと同じような構造。
しかし中央には黒い祭壇。その周囲にひび割れた石像が並んでいた。
「……人間の形、だな」
「けど、何か妙だな。祭壇を見張っているような配置に思える」
「古代儀礼の一種ね」フジコが静かに言った。
「“見ることを許されぬ死者たち”……」
その瞬間、空気が変わった。
ピキィ、と乾いた音が響き、祭壇の上の棺がゆっくりと開いた。
「……来る!」
フジコがナイフを構えた瞬間、棺から現れたのは――
腐り果てた花嫁のような姿。
ボロボロのヴェールに包まれ、黒い液を滴らせながら、彼女は立ち上がった。
「――ッ!」
亡者の叫びが広間を震わせる。
「やべぇ、こいつ……ただのゾンビじゃねぇ!」
「“怨霊化個体”ね。封印が弱まって暴走してるわ!」
フジコが叫ぶと同時に、寅二郎は前に出た。
「おら、来いや! お前も地獄の住人なら、俺が案内してやるよ!」
一撃、二撃。
剣がぶつかるたび、腐肉が飛び散るが――それでも止まらない。
亡者の腕が寅二郎を掴み、地面に叩きつける。
「ぐっ……!」
「トラジロウ!」
「だ、大丈夫だ……まだまだァ!」
フジコはその隙に走り出した。
「“見ることを許されぬ死者たち”……こうかしら?」
彼女が石像の一つの目をつぶすと亡者がうめいた。
「効いている?そういうことか!」
シドも続いて別の石像の目をつぶす。さらに亡者の動きが鈍っていく。
寅二郎が動きを封じている間にすべての石像を目をつぶした結果、
亡者が苦悶の声を上げ、体が崩れていく。寂しげな旋律のように、
そして、静寂が戻る。そこに髪飾りだけを残して。
「終わったか」




