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第八話 ダンジョンはつらいよ②

 神殿のような入り口を抜けると、冷たい風が頬を撫でた。

 ひんやりとした湿気が漂い、

 灯りの届かない闇が階段の先にぽっかりと口を開けている。


「……いよいよだな」

 シドが短剣の鞘を軽く叩く。

 その音が、やけに静かな空間に響いた。


「おお、これぞ“冒険の始まり”ってやつだな。なぁ、もっこりちゃん!」

「あなた、ずいぶん気合い入ってるわね」

 フジコがくすりと笑い、腰に装着した投擲用のナイフを確かめた。

「最初の層は“骸骨兵スケルトン”が多いわ。

 斬撃は通りにくいけど、打撃なら簡単に砕ける」

「へぇ、よく知ってるじゃねぇか」


「情報は命だから」フジコは片目をつむる。「女のね、特に」


「おい、色気で誤魔化すなよ」

「誤魔化してないわ。楽しんでるの」

 フジコの笑みに、シドは無意識に眉をひそめた。

(……やはり、何か隠している)


 階段を降りると、古びた石造りの回廊が続いていた。

 壁には錆びた鉄の燭台、床には砕けた骨。

 ところどころに水が滴り、青白い苔がぼんやり光っている。

 人の気配より、死の匂いが強かった。


「ふむ……さすが“墳墓”ってだけはあるな。

 ここに住めって言われたら3秒で断るね」

「そんな奴いねぇよ」

「ほら、見て。足跡。新しいわね」フジコがしゃがみこむ。

 指先で泥をすくい取り、匂いを嗅いだ。

「鉄っぽい……血の跡も混じってる」

「おお、プロっぽい」

「“っぽい”じゃないわよ。これでも昔、盗賊団のスカウト役だったの」

「ははぁ、つまり……盗むのが専門か」

「情報も、心も、ね」フジコが意味ありげに微笑んだ。

「おい、トラジロウ、口開けてるぞ」

「お、おう……すまねぇ、惚けてた」


 その瞬間、カタカタ、と乾いた音が響いた。

 薄闇の奥、骨のような手が灯りの明滅に浮かび上がる。


「スケルトン十、いや十五……」

「来るぞ!」

 シドが短剣を構えた瞬間、フジコが何かを地面に投げた。


パァン!


 閃光と煙が広がり、視界が一瞬白く染まる。

「今よ!」

 フジコの声と同時に、寅二郎が突っ込んだ。

「おらぁっ!」

 一撃で3体を粉砕、数分後には静寂が戻っていた。


 山となった骨の中から、フジコが一つの指輪を拾い上げる。

 古びた金細工に赤い宝石がはめ込まれていた。

「ほう、なんか高そうだな」

「ただの魔力蓄積具ね。けど……この感じ、古代カルナード製よ」

「つまり……王国時代の遺物ってことか?」

「ええ。ってことは――この先、もっと“面白いもの”が眠ってる」

 そう言って、フジコは笑った。その瞳に宿る光は、ただの好奇心ではなかった。


「急ごしらえのPTだが、それなりに動けたな」

 シドが短剣をしまいながら言った。

「だな!これって運命ってやつだよな!な、フジコ」

 寅二郎がフジコの肩を抱く。シドは殴ってやろうとしたが、


「ホント。運命感じちゃうわね♡」

 フジコは胸にまで延びかかった手の小指を狙ってひねり上げていた。

「いてて」

「はぁ、とにかくこれならペースを上げてもよさそうだ。

 出来れば今日中に最深部まで潜って帰還したい」


 三人の足音が再び奥へと消えていく。

 冷たい空気の中で、壁の古文字がわずかに光り、

 まるで“何か”が彼らを待っているように脈打っていた。


――そして、それは確かに“待っていた”。

人の欲とロマンが、再び扉を叩く時を。

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