表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/22

第六話 急襲はつらいよ④

 王都エスティアに、ようやく平和が戻りつつあった。

 魔王軍の奇襲を退けたその日から数日。

 街では復興の槌音が鳴り響き、王城前の広場には色とりどりの旗が翻っている。


「いやー、まさか俺らがここまでやるとはなぁ……」

 寅二郎はパンの耳をかじりながら、街角のベンチで空を見上げた。

 聖女様の長話、ギルドでの冷たい扱い、戦闘狂の悪魔ベルゼとの死闘——。

 全部がまだ夢の続きのようだ。


「お前、少しは自覚持て。お前がいなきゃあの王都、確実に吹っ飛んでたぞ」

 隣のシドが呆れたように言う。

 彼女は相変わらず顔をフードで隠し、いつもどおりの落ち着いた声。

 だがその手はまだ、包帯で覆われていた。戦いの爪痕だ。


「いや〜、俺よりアンナのが頑張ってたし。

 あいつ、マジで勇者って感じだったもんな」

 そう言う寅二郎の声には、少しだけ本音が混ざっていた。

 自分が本当に“英雄”でいいのか、まだ分からない。


 そんな時、遠くで鐘が鳴った。王城から使者が駆けてくる。


「緊急報告!ベルゼの姿を、南方砂漠の王国にて確認とのことです!」


 その言葉に、広場の空気が一変する。

 市民のざわめき、冒険者たちのどよめき、そして——シドのわずかな息の乱れ。


「……また、動いたか」

 寅二郎の瞳が細くなる。

 王都の平和が戻るより早く、奴は次の狩場を求めている。


「行こう、シド」

「もう? 祭の準備も――」

「あいつはやべえ。あのまま放っといたら、また誰かが泣く。

 ……だったら俺が行く」


 言い終わると同時に、寅二郎は腰の剣を軽く叩いた。

 まだ錆びついた安物の剣だが、不思議と光を反射しているように見えた。


 シドは、ほんの一瞬だけその背中を見つめた。

 言いたいことは山ほどあった。

 けれど——その歩き出す背に、何かを感じてしまった。

 あの男は、きっともう“覚悟”を持っている。


「……仕方ない。俺も行こう。“お人好しコンビ”だしな」

「よし、相棒。行くぞ!」

 寅二郎の笑顔は、いつも通りの軽さだった。

 でも、その軽さが不思議と勇気をくれる。


 二人の姿が王都の門をくぐるのを、誰かが見送っていた。


 ――勇者アンナだ。


「なによ、あいつ……。勝手にかっこつけて……!」

 腕を組んで、ぷいっと顔をそむける。

 けれど、その頬はほんのり赤い。

 聖女マリアが微笑みながら言った。


「あの人の代わりに、ベルゼ撃退の功労者として表彰を受けてもらいますよ」

「べ、別に! あたしが表彰されるとかどうでもいいしっ!」

 そう言いつつ、アンナは王城の階段を上がっていく。

 その背中を、マリアは少しだけ切なげに見送った。


 ――砂の向こうで、運命はまた動き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ