第五話 勇者PT初討伐に行く⑤
夜の王都は、昼とはまるで別の顔を見せていた。
石畳の街路に灯された魔鉱灯が、風そよぐ街並みを照らしている。
外出を許されたアンナたちは、
騎士団の寮の片隅にある小さな部屋に集まっていた。
木のテーブルの上には、パンとスープ、それから市場で買った安い果実酒の瓶が一本。報告を終えた後、アリアが「今日は――少しだけ」と提案したのだ。
「じゃあ……初陣、生きて帰れて、全員無事!
それに!」
アンナがグラスを掲げる。
「ゴブリン、ちゃんと倒した! 勇者PT、初勝利!」
「……“勇者PT”って、自分で言う?」
ヤスコが苦笑しながらグラスを合わせた。
その目の奥に、安堵とわずかな誇りが見える。
「でも、ほんとによかったね……誰もケガしなくて」
ユキナが静かに言う。
彼女のグラスは、両手でそっと包まれていた。
リルルが嬉しそうに頬を染める。
「ねぇねぇ、あの時の火球、見た? わたし、初めて成功したんだよ!
燃えすぎてアンナの髪も焦げかけたけど!」
「うるさい! あれはもうちょっとで燃えるところだったんだからね!」
アンナが笑いながら頭を押さえる。
その笑い声に、アリアも口元を緩めた。
「……恐かったけど、思ってたよりも、心は静かだったな。」
アリアの言葉に、部屋が少しだけ静かになる。
「剣を振るう時、“生き物を斬る”って実感した。
でも、あの瞬間――皆がいたから、止まらなかった。」
ユキナが小さく頷く。
「わたし、祈ることしかできなかったけど……。
でも、祈りって、本当に届くんだね。」
アンナがその言葉に応じて、軽くグラスを掲げる。
「ううん、届いたよ。ちゃんと。だってあたしたち、今ここにいるもん。」
外では鐘の音が鳴った。
王都の一日は長く、寒く、そして少しだけ優しい。
ヤスコがふと、空を見上げた。
「ねえ、あの空。前の世界でも、こんな星、見えたかな」
「どうだろ……でも、こっちの方がずっと近い気がするね」
リルルが窓辺に寄り、夜風を頬に受けながら笑った。
「なんか、“ここで生きてる”って感じ」
アリアが立ち上がり、皆を見渡す。
「この世界に来た理由はわからない。
でも、今日だけは、胸を張って言える気がする。
“私たちは、戦った”って」
「……うん」
アンナが頷き、静かに言葉を続けた。
「そして、これからも戦う。
生きるために。帰るために」
その言葉に、五人が小さくグラスを掲げた。
果実酒の琥珀色が、ランプの光に反射してきらめく。
夜風がカーテンを揺らし、遠くで騎士団の夜警の足音が響いた。その何気なく聞こえる音が、彼女たちが“この世界で確かに生きている”証のように感じられた。
アンナがぽつりと呟く。
「……ねえ、今度はライネル副長も呼んであげよっか」
「え、それ絶対断られるやつ」
「ていうか、あの人飲んでも笑わなそう」
笑い声が重なり、夜が少しだけ柔らかくなる。
こうして、“勇者PT”の最初の夜は静かに更けていった。
誰もが少しだけ、強くなったような気がしていた。
そしてその思いが、後に長く続く彼女たちの絆の礎となる――。




