第五話 勇者PT初討伐に行く④
「……終わりました」
アリアが剣を拭いながら報告する。
アンナはまだ剣を下ろせず、震える指先を見つめていた。
ライネルが近づき、ゴブリンの死体を一瞥する。
「五匹、確かに仕留めたな。」
彼は静かに言葉を続けた。
「お前たちの力は確かに“異界の加護”を受けている。
だが——その顔を見ろ。命を奪った者の目だ。
戦いとは、勝った者も汚れるものだ。」
ユキナが祈りの手を握りしめた。
「……救いは、ないんですか……?」
ライネルはわずかに目を細めた。
「救いを求めるなら、自分で創れ。神でも魔でもなく――人の意思でな。」
彼はそう言い残し、踵を返した。
騎士団の背が遠ざかる。森の中には、再び風の音だけが残った。
アンナは剣を鞘に納め、ゆっくりと仲間たちを見回した。
「……次は、震えない。みんなで生きて帰る。それが、あたしたちの戦い方だ。」
アリアが頷き、リルルが小さくガッツポーズをした。ヤスコは口元に微笑を浮かべ、ユキナは涙を拭った。
森の奥で、朝日が差し込む。
その光は、血に濡れた土さえも照らしていた。
新たな一日を迎える中、勇者PTは初討伐を終え帰還するのだった。
――王都の中央区、白亜の聖堂の奥にある報告室。
広い石造りの部屋の中央に、五人の少女が整列していた。
その向かいには、騎士団第三隊副長ライネルと、王国教会の高位聖職者、そして聖女マリアが並ぶ。静まり返った空気の中、蝋燭の炎がわずかに揺れている。
「……報告を」
聖職者の一人が促す。
アンナは喉を鳴らし、一歩前に出た。
緊張のあまり、足音がやけに大きく響く。
「訓練召喚兵、五名。黒樫の森にて、ゴブリン五体を討伐。
被害なし。任務完了、です!」
声はかすかに震えていたが、最後までしっかりと響いた。
アリアは静かに頷き、ヤスコは目を閉じて息を整えている。
リルルは少しうつむいて手を握りしめ、
ユキナは祈りの姿勢のまま唇を結んでいた。
沈黙が、落ちる。
その沈黙を破ったのは、ライネルだった。
銀の鎧を鳴らしながら、一歩前に出る。
「確認した。五匹すべて、討伐済み。
……訓練召喚兵としては上々の結果だ」
だが、褒めるような口調ではなかった。
淡々とした報告。
むしろ“まだ本当の戦場を知らぬ子どもたち”を見るような、冷たい眼差しだった。
「ただし――」
ライネルは視線をアンナに向ける。
その鋭さに、アンナは一瞬だけ背筋を強張らせた。
「剣の握りが甘い。恐怖を抑えきれていなかった。
勇者と名乗るには、まだ早い。」
痛いほどの沈黙。
アンナの胸が締めつけられた。
それでも、彼女は唇を噛んで、まっすぐ頭を下げた。
「……はい。精進します。」
ライネルは何も返さず、背を向けた。
やがて、マリアが静かに口を開いた。
「あなたたちは今日、初めて“命を奪う”ということを経験しましたね。」
その声音は穏やかでありながら、どこか哀しみを帯びていた。
「それは、勇者である前に“人としての罪”でもあります。
けれど――その重みを知る者だけが、真に人を救えるのです。」
アンナは、はっと顔を上げた。
マリアの瞳はまっすぐで、責めるような色はなかった。
「どうか、心を失わないでください。
力は、人を守るためにあるのです。」
その言葉に、ユキナの瞳が潤む。
アリアは胸に手を当て、静かに頭を垂れた。
リルルは拳を握りしめ、ヤスコは小さく息を吐いた。
「……はい、聖女様。」
五人は一斉に頭を下げた。
その瞬間、アンナはようやく気づく。
手のひらの冷たい汗が、いつの間にか乾いていた。
それが、自分が“もう少しだけ前に進めた証”のように思えた。




