第一話 異世界召喚はつらいよ①
読みやすく修正してみました。
「……目をお開けください」
優しくて暖かいその声に、冴木寅二郎は目を開いた。
目の前に広がるのは、見知らぬ大広間。
ローマ風の柱が並ぶ、神殿のような場所だ。
床には、かすかに光る魔法陣が浮かんでいる。
――そんなことよりも。
寅二郎は、声のした方へ顔を向けた。
そこには、全身白のローブに身を包んだ女性。
その後ろには、同じような服装の男女の集団。
さらに両端には、それを守るように全身鎧の騎士たちが立っていた。
「ようこそおいでくださいました。私はマリアと申します」
少女のようでいて、凛としたものも感じさせる微笑み。
――その瞬間。
寅二郎の頭の中は、全力で暴走した。
「もっこりちゃ~ん♡」
“新宿のスケベ狙撃手”と呼ばれた男のようなノリで。
あるいは“世界一の三代目大泥棒”ばりの軽やかさで。
寅二郎は空中を平泳ぎしながら、マリアへ飛びかかった。
「きゃあ!」
マリアが声を上げるより早く、騎士たちが叩き落とす。
「げふ」
四人がかりで首根っこを掴まれると、
地面に押さえつけられていた。
「失礼しました。あまりに綺麗な方でしたので」
そのままの姿勢で寅二郎は言う。
視線は相変わらず、マリアの胸に釘付けだ。
見事なロケット乳が、祈りの手の下で強調されている。
「聖女様、落ち着かれましたら説明を」
寅二郎を取り押さえている騎士の一人が言った。
「そ、そうですね」
聖女様と呼ばれた女性、マリアが、
咳ばらいを一つして話し始める。
それは寅二郎だけでなく、
その後ろにいる者たちにも向けられていた。
「私は聖ローマン教のマリアと申します。
皆様は、我々の秘術――英雄召喚により、
このリ・エスティーネ王国へ召喚されました」
後ろで何人かが息をのむ。
押さえつけられたままの寅二郎にも、それは分かった。
「どういうことか、
わかるように説明してもらえるのかしら?」
少々キツめの声色で、少女が言った。
「もちろんです」
マリアは微笑みを絶やさず応える。
――が、寅二郎は相変わらず胸をガン見している。
彼女の説明によると、こうだ。
ここは寅二郎たちからすれば異世界。
パナデイア大陸にある大国、
リ・エスティーネ王国の大聖堂にある儀式場らしい。
「今、この世界に魔王顕現の託宣があり、
我々ヒューマンサイドは各代表の協議により、
英雄召喚の執行が決定されたのです」
ヒューマンサイドとは寅二郎も好きだったライトノベルによく出てくるヒューマンや、エルフ(ダークエルフも含む)、ドワーフ、それにウサ耳少女や狼男のような亜人を言い、魔王とはそれらと対するデーモンサイド。
魔物や悪魔族のボスで時に強大な力を持って生まれ、ヒューマンサイドを皆殺しにせんと何十年、何百年周期で攻めてくるらしい。
「どこから?」
後ろの集団からまた一つ声が聞こえたが、それは随分小さかった。
「すこし難しく聞こえるかもしれませんが」
と前置きしつつ、マリアは説明してくれた。
この世界はマナという力に溢れていて基本的には正の力を持っている。しかし生物の感情や、世界自体のマナの巡りなどにより負の力が溜まることで魔物や悪魔族が生まれる。やつらは負の力で世界を覆いつくさんと正の力を持つヒューマンサイドを襲う。
「なので魔物なども世界中に出現していますし、
悪魔族も何人か確認されています」
そのため各国は武装し日夜戦い続けている。しかし、
「魔王が顕現すると一気に負の力が膨れ上がり、魔物や悪魔族も強化され魔王の名のもとに一致団結し襲い掛かってくるのです。しかも負の力の溜まり場が毎回違うため、我々はいつも後手に回ることになり苦戦を強いられるのです。歴史では我々の世界が滅亡寸前までいった戦いもあるといいます」
「で、私たちの話にどうつながるの?」
またさっきのキツ目の少女が発言した。
(こいつ、今の話わかったのかな)
と、寅二郎は何とはなしに思った。
「そんな幾度とない戦いの中、
我ら聖ローマン教のずっと先代の聖女様に女神より託宣が下ったのです。汝英雄召喚の秘術を用い、彼らにその力を借りよ。と」
寅二郎たちのいた世界からこちらの世界に渡るとき、マナの力に適応しようと変化が起こり強大な力を持ってやってくるというのだ。
「私たちの事情にはお構いなしなんだけど?」
どんどん言い方がキツくなっていく。
「私たちは帰れるの?」
集団はザワつきだし小さな声がまた一つ。
「残念ながらお帰りになる方法はわかりません。
ですが皆様はお気づきではないのでしょうか。
皆様はすでに一度、
あちらでお亡くなりになっておいでだということは」




