episode9
久しぶりの休日なので家でのんびりしているクド、ふと気が向いて道場を覗くとルカが一人で鍛錬をしていて不思議がる
「あれ?、シャルロットは?」
いつも一緒にいるほぼ片割れみたいな存在についてクドが言及するとルカが苦笑いする
「一昨日からずっと怒ってる、今は多分家にいると思うよ」
「シャルロットが怒ってるのか?…お前何したんだよ」
シャルロットが怒ってるなんて相当だと思って訳を問いかけるがルカも何が何だかと困っている様子で当時のことを話し始めた
「……シャルロットが魔術師になるという夢を叶えるために里を出て学校に行くことを告げた、でお前はそれに対して良かったじゃないか、頑張りなよと返したと」
「そうだよ、なんで怒ってるのかって感じで困ってるんだ」
多分かなり会話を要約してるんだろう、実際はもっとシャルロットはゆっくりと、なるべく可能性の話として話したはずだ、でそれをきっとルカが行けば良いじゃないかみたいな感じでドライに返したのだろう、クドも昔里から出て冒険者として三年ほど活動していた、そしてそんな人間は珍しくもない、つい先日冒険者になると言って里から出て行った青年もいるし、逆に街の娘と結婚して一緒に里で暮らしている奴もいる、多分そのせいでルカはドライに返したのだろうがシャルロットはもっと惜しんで欲しかったのだろう、そういう旨を軽く、シャルロットに配慮した形でルカに伝えてみる
「……?だって僕のせいでシャルロットの未来が狭まるのはよくないじゃないか、それは友達とは言わないよ、それはきっとただの依存だ」
「おま、お前……、はぁ……」
思ってた数倍いろんなことを考えた結果の上での行動で頭が痛くなる、ルカなりにシャルロットのことを考えての行動らしい、かなり、いや本当に難しくなって頭が痛い
「で、お前はどうするんだ?」
「どうするって?」
察しの悪い自分の息子に嫌気がさして少し被せ気味で返す
「いつ仲直りするんだ?シャルロットが里を出るなら最後くらいは仲良く過ごしたいだろ?」
多分シャルロットの方も本当に一時の感情だろう、今は引くに引けなくなって会いに来ないだけでできるなら会いに来たいだろう、そしてこいつは友達との喧嘩なんて初めてだから仲直りの仕方がわからないのだろう、ここは大人である俺が人肌脱いであげるべきだ
「……した」
「ん?」
小さな声で聞こえなかったため再度聞き返す、すると衝撃の言葉が出てきてしまってつい頭を叩いてしまった
「明日里を出るらしい」
「このバカ息子!!何そんな時に鍛錬なんかしてんだよ!」
道場から引き摺り出してアンサンブルクス家の蔵まで連れていく、そして古びた扉を開けて一緒に中に入る
「いいか!?こういう時女は贈り物をするんだよ、そうすりゃ大体の女は機嫌を直す、俺も昔交際してる相手に酔った勢いで娼館に行ったのがバレた時もこうやって機嫌を直した!!」
「あ、……御愁傷様」
あ〜あ、言っちゃったみたいな顔をするルカにクドは状況が飲み込めず黙り込む、そして何かを察して後ろを向くとミリカが立っていたのだった
「あ…、ごめん」
「非常に不愉快な気持ちになりました」
そのまま耳を引っ張られ引きずられる父を見送る、なんで同じ家に妻がいるのにそんな大声で昔の痴態を晒すのかと不思議に思っていると母がこっちに向かって大声で叫んだ
「女の子を泣かしちゃダメですよ!!」
「あ、は〜い…」
情けない父を見送って色々考えてみる、贈り物は有効だろうか、僕らは友達だけども遠くに行くのならきっといつでも見返せるもの贈り物というのは効果的だろうな、何が良いだろうかと思って蔵の中を覗く、贈り物なんて確かに里内で買っても味気がないだろう、その点で言えば我が家の蔵はかなり高得点だ。曽祖父あたりが珍しいもの好きでいろんなものを集めてはいらなくなって蔵の中に押し込んだり、武器収集が趣味の先祖もいたためいろんなものが入っている
考えて考え抜いた結果、贈り物は刀、彫り物、香水の三つに絞れた
刀はここら辺だと珍しい武器なので重宝するだろう、熊の彫り物はなんか贈り物っぽいし香水もオシャレだ、けど今のシャルロットにこれらの物を送って機嫌を直してもらえるか自信がない、なんせ僕はなぜ彼女が怒ってるのか全くわからないのだから
(正直寂しい気持ちもないわけじゃない、けどそれを理由に背中を押さないのは違うと思うんだよなぁ〜…)
埃だらけの箱を開けたりして考えを整理していく、魔術師になりたいというのならちゃんとした師のもとで学ぶべきだ、これは剣と一緒で独学では限界があるからだ、そしてこの里には魔術師がいないからいつかこうなるだろうと思ってたから正直驚きよりも遅かったなと思った
「……よし、変に考えるのやめよう、考えてわからんことはわからん」
唯一まともな理由を持って選べた刀…『小鴉』の手入れをして古くなった装具を新し物に変えてから怒っている母にアップルパイを焼いてもらう、そしてそのままシャルロットの家に向かい、扉を叩く
「は〜い、––!?……久しぶり」
「えへ、久しぶり…」
顔を見せたシャルロットには気まずそうな顔をされた




