episode8 過去の自分と分岐点
僕の居合を防ぐ作戦として諦めて受けるという考え自体はすごく良かったと思う、しかしそんな大きな盾を手に持って死角を増やしてどうするのだって感じだ。
ルカは一気に盾の資格に入り込んで殴打を叩き込む
「僕だったら盾じゃなくて籠手で防ぐな、そんなに大きな盾だと見えないでしょ?」
「…ぐッ!!」
殴打を叩き込んだルカに対してカウンターで盾を振り払って体勢を崩させようとするレノ、けれどそれを読んでいたルカは一度バックステップを踏んでから裏拳を打ち込んだ
「––ガッ!!」
「盾の扱いに慣れてないな、僕の初撃を防いだら捨てるつもりだったんだろ?君はなんて不自由なんだろうな」
ルカの言葉通りレノは居合を防いだら盾を捨てていつもの構えに戻すつもりだった、しかしそれを読んだルカは徒手空拳でその弱点をついていく。お得意の瞬発力と駆け引きの強さで一方的に攻撃を叩き込んでいくルカにレノは必死に喰らいつく、せめて致命傷は受けまいと頑張って食らいついていく
「どうした…?俺ごときを倒すのに随分苦戦してるみたいだな…?」
「…?僕の顔が苦戦している人間の顔に見えるか?そう見えるなら一度感性と一緒に視力も確認してもらうといいよ」
(クソ!!何か…何かないか?)
どうにか挑発してルカのペースを乱そうと頑張るレノだが一言ったら十くらいで返してくるルカに苦虫を噛んだような思いをする、けれど必死に何かないかと探しているとルカの頭に巻いたバンダナが目に入った
「お前のそのバンダナ、かっこいいと思っているのか?片目だけ隠して…、正直ダサいぜ?」
「…ッ!?」
レノの放った苦し紛れのジャブ、あれほど今まで言ってきたのに挑発に乗らなかったためレノも本当に苦し紛れだったのだがまさかのクリーンヒットとなる
(…は?今“パツンッ!“って、…何が?なんの音だ?)
わかってはいる、今目の前の人間から聞こえた音だと、けど確実に人体から聞こえてはいけない音だった気がする、パツンッっなんだ、パツンって。
ルカが沈む、地面から反発を得るために膝抜きをしたルカ、それがレノがかろうじて目視できたモーションだった
「グッ…!けど……けど止めたぞ!!」
レノの右腕に鈍痛が走る。咄嗟に盾を構えて止めたが盾がひしゃげてもろに衝撃が右腕に来たのだ、感触的におそらく骨まで逝った、けれど奥歯を噛んで踏ん張る、スムーズに盾を外して剣を両手に持ち替え、カウンターを仕掛ける
(振り出しにも脅されたら負ける!!ここで絶対に決めるんだレノ!!)
ギリギリの体勢から放った突き、ルカの鳩尾に確実に入った、そう観衆に思わすほどの鋭いカウンターが決まったかと思った
「……!?あぁ〜……、クソ」
しかし軍配はルカの動体視力に上がる。咄嗟に体を捻ったルカ、レノの突きはルカの腹を少し削って空を切った、そして手首を返して剣を振り上げたルカに顎を砕かれて試合は終わったのだった
ーー
(薬草の臭い…?それと甘い林檎の……)
調布剤特有の清涼な匂いとスースーとする感触、それに混じって甘い林檎の匂いに誘われてだんだんと目が覚めてくる
「…あ、起きた?」
「…?……ッ!?シャルロット!?」
シャルロットの瞳に反射して自分の顔が見える、そこでようやく自分の頭がシャルロットの膝にあることに気づく、しかしなぜそんな状況になっているのわからない、とりあえず体を起こそうとすると顎に鈍痛が走った
「痛ぅッ!」
「そんなに急に動かない方がいいよ、綺麗に顎に入ってたから、脳震盪っぽいし」
(どういう状況だ…?)
自分が負けたのは理解している、それなのになぜシャルロットがここにいるのだろう、そしてなぜ自分を膝枕しているのかが一才理解できない、そしたらそんな気配を感じたシャルロットが説明をしてくれた
「さっきルカが教えてくれたんだ、昔のことを謝りたがっていたって、でボクが会いたいのなら会えば良いって、まぁルカは合わない方が良いって言ってたけど」
えへへと笑うシャルロット、ルカにシャルロットにそんなことを伝える義理はない、自分を毛嫌いしているのはわかるしその理由も当たり前だ、そのうえ勝負にも負けたのに、それなのに伝えてくれたのだ、ならせめて後悔させないようにしないといけない。痛みを我慢して立ち上がって頭を下げる
「昔の事、本当にすまなかった、決して許してもらえるとは思っていない、けど貴方のおかげで大事な事に気づけた自分がいたのだ、だから…せめて謝らせてほしい」
もしあの時あの場所での会話がなかったのなら自分は変われなかった、きっと今でも努力をしない理由ばかり並べて何にも頑張れずに意味のない人生を送ってただろう、けどシャルロットが大事なことを教えてくれたおかげで今の、昔の自分を愚か者と思える自分がいるのだ
「うへへ、……昔のボクだったら、昔の君だったらきっと許さなかったと思う、けど、今の成長できたボクだから、今の真剣な君なら、……僕は許せるよ」
「ありがとう…、本当にありがとう…!」
「なんで君が泣くのさ」
どこか吹っ切れたような様子のシャルロット、ルカの手を借りずにしっかりと自分の考えで、自分の決断で四年前からの因果に終止符を打ったのだった
ーー
どこか清々しい気分がする、ルカは許す必要も会う必要もないって言ってた、一年近くもしんどい思いをしたのにわざわざ自分をいじめていた人間と会う必要はないって言っていた、けどそこまで言うのならボクに謝りたいと言っていたなんて伝えない方がいいのにそれでも伝えてくれたってことはきっと彼は変わったのだと思った、そしてやっぱり彼は変わっていた、何が彼を変えたのかわからないけど彼からは昔みたいに嫌な雰囲気はしなかった
「ただいま」
納得のいっていない、けどボクがそれでスッキリしたのならと渋々理解してくれたルカに別れを告げて家に戻る、すると来客があるらしくリビングで父と話している
(……挨拶はいいかな)
大事な話をしているみたいなのでそのまま自分の部屋に行こうとしたら呼び止められた
「シャル、良いところに、挨拶を」
「は、初めまして、娘のシャルロットです」
父と話していた相手はかなり若い女性だった、一瞬不貞を疑ったのだが女性の雰囲気と発言で杞憂で終わる
「へぇ、……すごい魔力量だね、私よりも多いかも」
「あ、あなたは…?」
「…は?知らないのかい?魔術師の卵なのに?」
驚いた様子の女性にシャルロットは不興を勝ったと思って謝る
「す、すみません!不勉強なもので…」
「まぁいい…、私の名前はテラー、茨の魔女テラーと言ったらわかるか?」
茨の魔女テラー、新大陸最大の魔道国家アドミスで最年少で魔女の称号を得た魔術師で、シャルロットが魔術師を始めるきっかけとなった魔導書の著者の名前だった




