episode73 “元“大精霊
多少背が伸びた、けれどあった時より子供の姿のテオドラが料理に使う薪が足りないことに気づいたらしくため息をついた
「てぃーは外に薪をとってくる、ルカは火種を作っておいて」
そう告げて裏口から庭の方に出た
僕はとりあえずリュックの中からマッチを取り出して火を起こそうとした
けどどうやらいつの間にか湿気っていたらしく使い物にはなりそうにないことにマッチを五本ほど消費した後に気づいた
「……あれ?こういうときどうしてたっけ……」
今まで火種に困った覚えがない気がする
確か…里にいた時は火打石を使っていたはずだ、火種を作るのが難しい時はキノコを粉末状にしたやつを使えば簡単に火がついた、けど手元にそのキノコはない
「……はぁ」
ロララたちと組んでいた時は…確か火種に困った覚えがない
こういう時はロララが火をつけていた……いや、あいつは黒緋の魔術師のプライドがどうのとか言って初級魔術を使わなかったはずだ、確か…………あれ?
ミスチーが初級魔術を使えたんだっけか、じゃないと辻褄が合わないような気がする
「––うっ…!」
頭が割れるように痛い、酔っている時にロララに見ぐるみ剥がれた上に冬だというのに水をかけられて一晩放置された時みたいに痛い
『……ならこの刀は?』
『………兄のだ、双子のな、ただこれは影打ちで真打は今どこにあるか知らん』
幻覚が見える、視線の高さに違和感を覚える
目の前の男はミドラに幻覚を見せられた時に出てきた男の背格好に似ている気がする
『兄?どんな人ですか?』
『……それは––』
また頭に割れるような痛みが走る
幻覚が消える前の、最後に見えたのは目の前の男の瞳に映った自分…テオドラの顔だった
「頭痛ですか?」
視界が歪み、頭痛が落ち着いて目を開けると、男の瞳に映ったテオドラの顔よりも少し幼くなったテオドラが僕の顔をのぞいていた
「怪我は治っても失った血は戻らない、何か口にしたほうがいい、座って待ってて」
「……助かるよ」
お言葉に甘えて椅子に座って待つ
多分だけどさっきの頭痛と幻覚は血を失ったからではない
多分ミドラに左腕を食べられた影響だ、魔術に関しては完全に畑違いだからなんとも言えないが多分テオドラの記憶を見たのだろう
(魔術師だったらなんかわかったんだろうな…)
「どうぞ」
どうぞといい僕の前にシチューをお肉がたっぷり入った置いてくれるテオドラ
そして自分も僕のお皿の倍くらいあるものにたっぷりシチューを入れて正面に座った
「ありがとう」
しかし作戦が上手くいって良かった、可能性としては低いが下手したら僕の記憶が全部とられる可能性もあったのだから作戦を覚えていた時には本当に安心した
「……どうしたの?疲れた?」
「いや…、あの刀ってさ、ここに住んでた人の双子の兄の?」
単なる好奇心での問いだった
僕の問いを聞いたテオドラは初めてその顔の表情に感情を乗せた
「……そういえばそうだった、けどなぜそれを?てぃーも言われるまで忘れてたのに…他に何か知ってることは?」
「……あの女のせい、多分だけどテオドラの記憶が一瞬入ってきた」
どうやら僕の脳みそが勝手に作った幻覚ということではなかったらしい
テオドラは僕の言葉を聞いて色々と考えた後に勝手に納得したらしくお肉を頬張って気持ちを落ち着かせた
「……この家はてぃーの記憶を再現した、いわば実体を持った幻覚のようなもの、けど日輪だけは本物、けどその隣の……確か『月華星彩』の影打ち…だったはず、の幻影、真打は…知らない」
記憶はどうにもあやふやらしい、まぁ他人の…それも普段使いしていなかったであろう刀について詳しいことなんか覚えておくほうが難しいだろう
「…そういえば、もう人間界に戻せるけど…どうする?てぃーとしては……まぁどっちでもいい」
そう問われて少し返答に迷う
これといった目的もなくプラプラ歩いていたら精霊界に迷い込んだはずだ
散々帰れるのか?帰れるのか?とテオドラを急かしていた自覚はあるのだがいざ帰れる算段ができたと言われても帰って何をしようと迷ってしまう
(さてさて…どうしたものかな………ん?)
腕を組んでどうしたものかと悩んでいたら目の前のテオドラの様子に気づく
そわそわしている気がする、なんかこう、面倒な感じと共に…なんかそういう感じだ
そしてその姿にどこか既視感を感じる
「……あ!」
既視感の正体は多分ロララだ、誕生日のときこんな感じだった、自分からは言い出さないけど祝ってほしい、そして会話にケーキ屋さんの話題を露骨に出してケーキを要求する、あのめんどくさい感じだ
“てぃーとしては……まぁどっちでもいい“
どっちでも良いとは?どっちでも………
「人肌が寂しくなった、とか?」
「––ッ!!」
どうやら声に出ていたらしく顔を上げると目の前には耳まで真っ赤になったテオドラが今にも恥ずかしさで溶けてしまいそうになっていた
「もういい、好きにしたらいいと思う、てぃーには関係ないこと…」
「––ちょ、待って!」
残っていたシチューを全部口の中に注ぎ込んでハムスターのような口で席を立とうとしたのを焦って止める
流石に今のはデリカシーがなかった、母さんがこの場にいたら一発で僕の分の石がなくなる失言だ
(里一番の高嶺の花とまで呼ばれた僕の天才的な経験から弾き出された答えは…)
「暇つぶしに少しついてこない?」
これのポイントは暇つぶしと入れること、これを入れるだけで彼方の顔が立つ上に暇つぶしのため飽きたら帰れるという保険も兼ねているまさに天才的な一手だ
「––うわっ!?」
ルカの頭をテオドラが近くにあったタオルで包んで視界を遮る
「ちょ、息が…!」
抵抗するルカを必死の顔を必死にタオルで押さえつけるテオドラ
その顔は夕日のせいか、いやきっと夕日のせいで赤くなっていた




