episode71
森の中ということは変わりないが雰囲気が微妙に違う、根拠はないけど基本世界だということを確証できた、そして目の前にいたミドラはいなくなっておりそしてそのかわりに目の前には小さな子供がいた
「間に合ってよかった」
僕にはこんな小さな知り合いはいない、けれど顔の筋肉が全く動かず抑揚の無い声で喋るその姿には見覚えがあった
「……テオドラ?」
僕の問いに頷く小さくなったテオドラ似の子供
けど明らかに存在感がなくなっている、今にも消えそうだ
「寸でのところで分体を造って脱出した」
「そう、生きててよかったよ」
死にかけたら分体を作って逃げ出せるとは精霊は便利な生き物だなと思ったがどうやらそうでもないらしい
「何を考えてるか大体わかる…、けどそんな良いものではない、力の八割ほどを奪われた」
「……記憶は?」
「そっちは問題ない、けどあの女と魔法的な繋がりができたせいで私が生きていることに気づかれたら全部奪われることになる」
魔術や魔法面には本職ほどの知識はないが大体言いたいことはわかる
「魔力を相手の体に傷と共に付けて位置情報を特定するのと同じ原理か」
「……多分」
けど幸いなことに相手は自分がそれをできることに気づいていない、けれどすぐに気づく可能性もあるし、逆に一生気付かない可能性もある
「魔術抵抗は?」
「不可能、吸収されたのが分体なら可能だけど本体の力の比重が大きすぎて無理」
諦めたような顔をしてそう告げるテオドラ、けど僕は一つシンプルな解決方法を知っているつもりだ
「悩む必要はない、ミドラを殺せば解決だろ?」
「……繋がりを利用してあちらの様子を伺っているけどその策はあまり現実的には思えない、あの女はあの人の力を半分ほどだけど間接的に手に入れた、そして今この瞬間も強くなっている、貴方じゃあの女には勝てない」
性格を知っていなかったら煽ってるとしか思えない言い方で告げられたがまぁ概ね事実だ、けどさっきは半分くらい勝ってた気がするし敗因は目の前の無表情精霊が力を奪われて即死級の怪我を治せるようになったせいな気もする
けどまぁミドラの性格と能力の特性を利用したら九割九分勝てる作戦がある
「テオドラって水の精霊?治癒系統の魔法が使えるよね、例えばあの女を殺した後、どの程度の怪我までなら治せる?」
「……けど一度だけなら四肢欠損レベルのを治せる、けど本当に一度だけ」
「なら勘定に入れていいってこと?」
「……当てにしすぎないでほしい」
なら十分だ
僕はさっき自分の腹から抜いた刀の血を拭ってから鞘に戻す
「作戦名は…『勝てば官軍』でいこう」
「……名前からして不穏」
ーー
目の前の光景を見て少し驚く
「……ん?あぁ、勝ったのか」
左手のないルカ、そしてその正面には目から光を失い、そして自分が今何をしているのか理解しているのか、そもそも自我があるのかわからない焦点の合わない目をしたミドラ
「あ…ぁぁ」
「お母さんに習わなかった?落ちてるものを口に入れてはいけませんって」
そう言ってルカがミドラの首を切り落とす、ゴトンッと重量を感じさせる音を鳴らししながら地面に頭が落ちる、その顔には苦痛を感じているように思えない、何が起きているのか全く把握できていない虚な表情が妙に印象に残った、酷い目に遭わされた挙句大事な記憶すら利用された相手だが、そんな相手でも同情すら覚える最期だ、そしてその直後自分の中にエネルギーが戻って来たことを感じた
刀と懐にしまってあった解体用のナイフを鋭く擦って火種を作る、その火種を利用して死体を燃やし、その燃えている炎を見るルカ、輪郭がぼやけて、周囲の自然との境界がなくなってそのまま溶けてしまいそうに見える
シチューを美味しそうに食べるルカ、時折見せる今のような消えてしまいそうなルカ、その二面性にどこか人間離れした何かを感じる
「テオドラ?これ治せる?」
痛々しい、あの女の使い魔に噛みちぎられた、骨の見える肘から先のない左腕を見せてくる
けどその表情には先の命を奪った時の表情とは違い、ちゃんと人間味を感じる
「……この怪我も作戦通りの結果?」
「…?そうだけど…僕の記憶を喰わせる必要があったんだから」
ただの確認だ
確かに四肢欠損を一度だけ治せると言ったし目の前には失った左腕が治ったことに安堵するルカがいる
なんの問題もない、結果だけを見れば見事に作戦がハマった
ただ一つ気になることは
今時の人間は必要なら薬で自分を廃人にし、左腕を相手に喰べさすくらいするのだなという驚きだ
千年前の時代でも、……まぁやりそうな人は結構いるか
まぁ戦う原因を作った自分が言えたことではないが、もう少し、自分の体を大事にしてほしい




