episode70
本当に今のは危なかった、柄の頭あたりを握っていた左手の小指と薬指が折れただけで済んだけど一瞬反応が遅れていたら心臓をぶち抜かれて終わりだった
折れた指を無理やり戻して刀を握れるように調整してから立ち上がる、ずいぶん遠くまで吹き飛んだがどうやらまだ追ってきてはいないらしい
「言動を整理するに、使い魔が捕食したテオドラの記憶を媒体にしてあの人…死神とやらの力を再現している、もしくはそれに類似する能力と見て良いな」
そして推測するに捕食する媒体は誰でも良いわけじゃない
まず第一に本人、多分記憶の解析とやらは必要なく捕食した瞬間から完全に再現が可能
次に本人に詳しい人間、これは当然本人に詳しければ詳しいほど再現度は高くなるだろう
そして本人以外の場合ノイズとなる情報が多い上に記憶が昔であればあるほど記憶の解析に時間がかかる、といった感じだろう
そして問題となるのはこの能力は当然技術の再現だけではなく記憶、つまり情報を抜き取ることも可能という点だ
僕の記憶が間違いなければテオドラの下半身を使い魔が捕食した瞬間にあのミドラとかいう女の総魔力量が上がっていた、言い方が悪いが捕食されたのがおそらく精霊界に引きこもっていたテオドラだったためまだ被害は少ないがもし僕の記憶が読まれた場合銀翼魔術師団の隊長さんみたいな魔力量の多い人間を片っ端から捕食していく可能性も存在している
それがおそらく最悪だ
「まぁ欠点もいくつかあるけど」
力は無闇に見せないほうがいい、父の言葉だ
無敵のような能力だがすでに弱点は見つけてある、そしてその一つが記憶を解析したからと言って技術や体の動かし方が上手くなったのに対して魔力量は上がれど闘気の練度は上がっていなかった点だ
これはおそらく死神本人ではなくテオドラを喰べたからだ、そしてそれが関係しておそらく死神本人と比べある程度弱体化しているはずだ
しかし面倒だ、非常に面倒、僕が狙うは短期決戦だ、攻撃が通る内に殺すしかない、もし記憶の解析が進んでこれ以上どうこうされたら打つ手がなくなる
「こんなところまで飛んでたのか、器用な奴だな」
ミドラが顔を出す、すでに勝利を確信しており、僕で今からどう遊ぼうかと考えている顔をしている
「まぁいい、お前もちゃんと喰べてやるから安心しろ、私の大権の糧となるのだ、光栄に思うといい」
刀を平青眼に構える
居合に力を入れている無双刻円流、御先祖様は居合になにかを見出したのだ、もちろんそれに何かを思うことはない、ただいわゆる“ソリが合わない”というやつだ
僕は突き技が最も厄介で、最も強い技だと思っている、そしてそれは居合よりもだ
そしてこれが突き派閥である僕の答えだ
「空裂の術理・三段突き」
ルカの体が一瞬浮く、そして破裂するような音と共に踏み込み高速の突きを放つ
一度目は脳天、頭蓋を割る一撃
二度目は喉仏、血が滝のように溢れ出す
そして三度目は心臓、肋骨の間をすり抜けるように刃を斜めに倒して貫く
一度の踏み込みで三度の突き技を放つルカの必殺の技、それは確かに三度ミドラの体を貫いたのにミドラがかろうじて見えたのは自分の心臓に刀が突き立てられた最後の一突きだけだった
心臓を貫いた確かな感触と共に勝利を確信するルカ
しかしルカは一つ見落としていた点がある、ミドラも想定していなかったそれは水の大精霊テオドラを捕食したことにより獲得した力だった
「––グッ!?」
ミドラはルカを蹴り飛ばし、倒れ込んだルカ目がけて刀を投げるつける
刀はルカの腹に刺さりルカの顔が苦痛で歪む
ミドラは悠々と心臓から流れる血を止め、ルカに貫かれた、数十分前なら即死していた傷を一瞬で直し、ルカに向かって見せつけるように水で輪を無数に作り子供のように遊ぶ
「そもそも勘定にすら入れてなかったが…千年以上生きた水の大精霊の治癒力、そして水の魔法、思わぬ副産物だな、私は実に運が良い」
水の魔法で作った拘束具でルカを木にくくりつけて見下す、そしてその後ろから煙で作られた使い魔が顔を出す
「私の力の一部になれることを感謝しろ」
「……次は殺す」
使い魔の口が大きく開く、そしてルカの体を捉えてその強靭な顎でルカの体を噛みちぎり肉の裂ける音が聞こえた、と思われた、しかし響いたのは歯が空を噛んだ大きな衝撃音だけだった
「––なっ!?」
目の前で拘束されていたルカはまるで霞のように消えたのだった




