episode69
ルカに意識があることにミドラ、そしてルカが自分に刀を向けていることに心底呆れたような視線を向ける
「そのまま眠っておけば良いものを…何がそこまでお前を動かした?ただの人間が私の夢幻から抜け出すほどの覚悟はどこから?、それに喰った記憶によるとこいつとお前はほとんど赤の他人、なのになぜ逃げずに刃向かう?」
ルカはミドラの気にせず、すぐそばで地面に転がるテオドラの死体を咀嚼をするミドラの使い魔を両断する
「一つ、僕の神経を逆撫でした、一つ、テオドラを殺した、…この世には踏んではいけない地雷がある」
「……傲慢だな、まぁいい、死神の記憶の解析が済んだらお前も喰べるだけだ、生簀を知ってるか?鮮度を保つためにわざと殺さず生かしておくんだ」
そう言って腕を振る、ルカの右目に映ったのは高密度の魔力の塊が、そも軌跡の延長線上、自分に向けて飛んできていること
「改めて、橙の権能の保有者にして未来の『暴食の大権』保有者、背信者ミドラ」
(魔術…じゃないッ!?魔力に指向性を持たせて飛ばしたのか!)
不可視の魔力の塊にルカの対応が遅れて吹き飛ばされ、背中から岩にぶつかり、肺にうまく空気が入らなくなる
「––グッ!?……フゥー、フゥー…」
「ほら、避けろよ?」
魔力に指向性を持たせて飛ばす、まず攻撃が自分を始点とした直線上にしか繰り出せない、そして燃費が悪い、同程度の魔力を使用する場合魔術を使えば副次的な効果を発揮できる、炎であれば燃えたり、土であったらその場に残ったり、これにはそれが見込めない
しかし発動までの速度、視認性の悪さ、そして何よりも破壊力という点においては群を抜いて高いのである
「ほら、ほら、ほらほらほらァ!!」
流動的に動きながらルカが切り掛かる、しかしミドラは余裕そうにルカの攻撃を避け、距離をとりながら魔力の塊を飛ばし牽制を続ける
(こいつ…キューベルと名乗ったあの男より強い…!)
もし精霊界に来て、闘気の練度が上がってなかったらおそらく最初の魔力の塊で圧死していた、それほどまでにこの女は強い
「……まぁだからといって負けるつもりはさらさらないけど」
ミドラがまた腕を振ろいルカを攻撃しようとする、しかし自分の腕から血が垂れていることに気づき驚く
「……!?いつの間に…」
「さぁ?森の中を走ってると枝とか葉っぱで体が切れるから気をつけたほうがいいよ」
ミドラは自分の肩についた傷に治癒魔術をかける
(キューベルと違って魔術で治すのか…?…不死身じゃない?)
あの男は治癒魔術なんて使わなかった、何もせずとも千切れた手足が治った、それなのにこの女がわざわざ治癒魔術を使った、どうやらあいつの仲間だからといって無条件で不死身ではないらしい
「刻円の術理」
空気の裂ける音と共に銀光が走る
(––速い、避けれない、防御…いや防御の上から斬られる…、なら––)
ちょうどすぐそこにあった、最初にルカが両断したミドラの使い魔の体が破裂する、その中の肉塊の一つがルカとミドラの間に割り込み、そして遅れて無数の拳大ほどの大きさの肉塊がルカを襲う
「––ウッ!?」
ルカの剣先が僅かにブレる、その一瞬をミドラは見逃さず、使い魔の破裂と共に空に打ち上がったテオドラの足を掴み、ルカの刀に対して盾になるようにしながら距離を詰める
(…斬れないだろ?人間は難儀だな)
『春歌』は切れるものには上限がある、切断のイメージが正確にできるものしか切れないため実力相応のものしか切れない、しかし逆は簡単だ、切らないイメージをするだけで良い
銀の軌跡が歪む、テオドラの足に剣先が触れた瞬間に刀身がすり抜け、春歌はミドラの腕だけを正確に斬り落とした
「助言だ、策士策に溺れる、もう少し考えてから行動したほうがいい」
一瞬で腕を治癒魔術で繋いだミドラにそう告げるルカは軽快な口調だが眼は全く笑っておらず、殺意に満ちた剣圧を放ち続けている
「傲慢、またしても傲慢だな人間、そして同時にその態度は軽侮に値する物だ」
(今何か…?いやな予感が…)
ミドラの目が一瞬赤く染まり、周囲に火花が散る
小さく、そして連続的に音が爆ぜて、色が舞う、そしてミドラの影が膨らみ蠢く
「光栄に思え人間、お前を喰う前に死神の力の一端をお前で試してやる」
(まずい…!何かがまずい!気配が突然変わった!)
ルカの予感は的中した
ルカがかろうじて見えたのは一瞬消えたミドラが次の瞬間には自分の心臓を抉り抜こうと胸に手をかけようとしている光景だった
ルカの体が森の中に吹き飛ぶ
「刀の柄で防ぎながら自ら後ろに飛んで威力を流しきったか、……しかしこれほどとは!、死神の力を全て手に入れれたなら本当に大権を手にすることができるぞ…!いや、今のままでもあの人間を喰えば足りそうでもあるな…、……確実に大権を得るために両方で行くか」
ミドラは自分が柄にもなく興奮しているのを感じていた




