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龍と魔法がありふれたこの地にて  作者: クラムボン美少女概念
橙の権能と空っぽの大精霊
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episode66 シチュー

僕の体には今異変が起きている

まず魔眼、今までと比べても比較的短時間しか使用していないのに血の涙が出ることがある、もちろん痛い

そしてもう一つは総魔力量が減っている、勘違いかと思って気にしてなかったけど明らかに魔力が減った、多分だけど精霊界に来てからだ、もしこのままのペースで減っていけば僕の体からは魔力がなくなるのもそう遠くない未来だ

まぁ両方とも今すぐどうこうしないといけないようなことではない、魔眼なんて使わなくても困らないし魔力だってそもそも僕は剣士だ、戦闘で使えないよりも喉が渇いた時に水が飲めなくなることの方が困る程度だ


けどそれと反比例するように闘気の練度が上がっている、今の僕の闘気は上級魔術が直撃してもギリギリ即死しないくらいに練り上げられている、いやそれは盛ったかも


「精霊界が人体に与える影響かぁ〜、論文にできるかも」


帰れた時のことを少し考えながら鹿の血抜きをする

そして解体した肉を家の方に持っていく


「テオドラ、一緒に食べない?」

「精霊は嗜好品として楽しむことはあれど食事を取る必要はない」


精霊は魔素で肉体を構築している精神生命体、そのため人間のような生物とは違い食事を摂り必要はない

けれど基本世界で過ごしたことのある精霊は自主的に食事をとることがある

ルカが少し悲しそうな顔をして引き返そうとしてるのに背を向けて家の中に招く


「……でもてぃーは食べる、ありがとう」



ーー



ほっと息をつく、実は精霊に食べ物を贈る行為は地雷なのかと思った


「料理得意だから何か作るよ、キッチン借りても?」

「いい、お肉…持ってきてくれたから座ってて」


そう言って僕から鹿肉を受け取ると慣れた手つきで調理器具を棚から出し始めた


「色々聞いてもいい?」

「……別に」


「一緒に住んでた人ってどんな人?」

「……説明が難しい人、けどなんだかんだ言って優しい人だった」


「そこの刀ってその一緒に住んでた人の?」

「そう、灼刀日輪は彼の、隣は…忘れた、日輪は使い手の闘気に比例して炎を魅せる魔剣、彼は一振りで龍を焼き切った」


「りゅう…真なる龍?……敵にまわしたくない人だな」

「当たり前、あの魔王も闘気にあてられて剣を抜くほど」


気になる言葉が出てきた、魔王、魔大陸で国を治める支配者を指しているようには感じなかった、どっちかというと一個人を指しているような、まるで二つ名のようなニュアンスを感じた

魔王について詳しく聞こうと思ったけど目の前に料理が出されたのでやめておく


「……シチュー、隠し味にリンゴのソースを使ってる」

「ん、美味しい、鹿の臭みってこんな綺麗に取れるんだ」


出されたシチューを一口飲んで驚く、特有の臭みがなくなっている、それにお肉も柔らかい、精霊なのに思ってた数倍料理ができて驚く、ちょっと自信がなくなる程度に


「それは友達の入れ知恵、それとシチューは美味しい、そういうもの」


その言葉に続けて「五百年ぶりくらいに作ったけど…」と小さく漏らす、僕は一応聞かなかったことにした


「シチュー好きなんだ、まぁ僕も好きだけど」


そして思ってたよりも大きな口で食べるこの子、無表情なのは全く変わらないがすごく美味しそうに食べる、そして数回おかわりを次に行っていたテオドラの食器は最初は僕と同じデザインのものだったのに二回りほどの大きさの食器に、ごろごろと具を入れたシチューを食べていた


「……む、何?」

「いや、美味しそうに食べるなと思って…」





風でカーテンが靡き、窓からの光が眩しくてテオドラが目を顰める

その一瞬、昔の、みんながいた食卓を思い出す


『お前やっぱ美味しそうに食べるなぁ』

『テオドラはたくさん食べますからね、私がおかわりを注いできてあげますよ』

『あぁ〜!!◇◇さんがまた甘やかしてる!!私にもおかわり!!』

『お兄ちゃん、このお肉食べやすくて美味しい』

『あぁそれな、◇◇がお前でも食べやすいようにって考えたんだ、お礼ならあいつに言え』

『…ん?どうしたテオドラ、僕の顔見て、なんだデザートか?』


(久しぶりに…こんなに思い出した)


『うわっ!?何泣いてんだよ…、ほら、前食べたがってたやつだ、これで機嫌直せよ』



カーテンが靡いて視界を遮る、すると二つの食器と、静かな闘気を持つ青年が座っている


「あ、そういえば倒れる前に街に寄った時にクッキーを買ったんだった、高かったから美味しいよ思うよ」


そう言って缶を机に置いて蓋を開けるルカ、中には美味しそうなクッキーがいくつも入っている


「……ありがとう」


テオドラのその一言、たった一言に幾つかの思いが込められていた

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