episode65
精霊界
他にも狭間の世界や精霊の国、裏の世界など様々な呼び方をされているがその実態は解析されていない
精霊が住んでいるとか、何もない闇の空間だとか、幻想的な世界が広がっているとか
なぜこんなにもいろんな話が出回っているのか、一つの考察がある
基本世界、僕らが生きている世界だ、その隣に精霊世界が存在しており、そして精霊世界はそもそもの世界の作りが違う
まず基準になる第一次元が存在しており、次に各精霊ごとの部屋のようなもの、第二次元が存在している、そして最後に何も存在していない、無の次元、第三次元が存在しているという考えだ
まぁ僕ら人間も自分たちの世界、基本世界のことを完全に理解していないのに他の世界のことを理解しようというのはおかしな話だとは思うが
何が言いたいのかというと少なくとも基本世界と精霊世界は次元が違う、だから目の前の無表情が特徴の精霊がさっき言ったみたいに海を泳げば気絶する前にいた場所に戻れるなんていう話はないのだ
「木製の民家…」
森の中とはいえ海からは遠く離れていない、なのに石材ではなく木材で作られた家
一人で住むには大きいが二人なら寂しさも窮屈さも感じなさそうな大きさ
窓や玄関、至る所に植物が飾られていて庭にも小さな畑のようなものがある、育てられているのは多分苺だ、そしてその隣にはリンゴの木が植えられている、それも青リンゴ、よく育てられていて水々しく美味しそうだ
生活感の感じる、どこか懐かしさというか心地よさを感じるような民家、そこに彼?彼女?は住んでいるらしい
「…珍しい?」
視線が気になったのか玄関の前で止まって尋ねてきた
「これはてぃーの記憶を元に再現した昔の家、……今の人にとっては珍しい造りかもね」
「いや…、媚び売るわけじゃないけど良い家だと思うよ」
家の中に入ると蜂蜜と柑橘系の果物の匂いが鼻をツンと刺激した、暖炉の隣には二本の刀が立てかけられていてそこだけは触れてはいけない、敬意を払わないといけない、そう直感的に感じるほど、けど静かな空気が流れている
机の上に引かれたテーブルクロス、ペアになっているマグカップ、剥かれた青リンゴに蜂蜜漬けのレモン、開かれたまま置かれた本、半開きになった奥の扉から覗く清潔感の感じられるベット
「で、僕はどうやったら帰れるの−–うわッ!?」
窓の外から部屋の中に視線を戻すと目の前に精霊がいた、それにも多少は驚いたがどっちかというとその後の僕が口を開いたらもう一歩踏み込んできて肩に顎を乗せて耳を口に近づけてきたことに驚いた
「……僕の声そんなに聞こえにくい?」
「……?」
僕の言葉の意味が伝わらなかったのか、首を傾げる
けど距離自体はまたさっきまでのものに戻ったので僕も気にしないでおく
「十年くらいしたら感覚を思い出すと思う」
「十年ッ!?外に出れる時には死んでるよ!!」
「精霊界はあなたたちの世界と流れる時間が違う、だから年をとる心配は……多分ない」
「多分か…そっか、多分か」
ショックを受けているルカ、その姿を見てクスリと小さく笑う、けどルカはそれに気づかずに肩を落としている
「冗談、そんなにかからない、一週間くらいここで過ごすことになる…だけ」
(自身なさげ…)
まぁこの人は関係ないのにある程度のことを教えてくれているのだ、贅沢は言ってられない、それに年を取らないのなら実質休暇みたいなものだ
「てぃーの名前はテオドラ、あなたは?」
「ルカ、剣士だ」
「……もしかしてエリス教国出身?」
エリス教国、確かレオの王国や隊長さんの帝国よりも西に位置してる大国だ、新大陸の方にも交流を持っていて治癒魔術などの神聖魔術が世界で一番発達しているとか言われている国だ
「残念だけど…僕は新大陸出身だ」
「そう、……二階の奥の部屋が空いてる、ここにいる間はそこを使って」
「あ、そのことだけど僕は野宿するよ、慣れてるし」
テオドラが親切に僕がここにいる間寝泊まりする場所を貸してくれようとしたけど遠慮しておく
「……外よりましだと思う」
「ここには一人で住んでたわけじゃないだろ?」
「…まぁ」
僕の魔眼は魔力の込めないと何も見えない、その代わりに魔力の流れや形と共に時折不思議なものが見える
いやこれは魔眼から伝わる情報なのだろうか、わからないが感じるのだ、昔ここでテオドラと一緒に暮らしていた人間の軌跡を
「ここは…三人で住むには狭いからね」
「……そう」
そう、多分この表現が正しい、僕が入る余地はないのだ、すでにこの家には
そこにテオドラと一緒に住んでいた相手がいなくても、それ以外が揃っているのなら大体一緒に住んでいた相手が感じれる、そしてそれは簡単に崩れることがある、僕のような部外者のせいで
「良い関係だったんだね」
「……違う、てぃーはあの人に何もできなかった」
表情は全く変わらないのにテオドラが何を考えているのか大体わかる
何もできなかった、そう言うが僕はそうは思わない
「何年一緒に住んでたの?」
「……五年ほど」
五年、精霊に取っては一瞬のことかもしれないが僕らにとっての五年は人生を左右するレベルの長さだ
「そう、……同居ってさ、一番ハードルが高いんだ、血の繋がっていない相手が家にずっといるって思ってるより疲れる、出身地が違うだけで文化の違いがネックになる、それなのに精霊と人間…、気のおけない相手とじゃないとできない」
別にテオドラを慰めるようとしている訳ではない、なぜか少しムカついたのだ
「心を偽らなくていい相手は貴重だ、そして心を偽らずに接してくれる相手も貴重だ、君には少しわかりにくいかもだけど……君が彼に何もできなかったんじゃなくて、…きっと彼は君がそばにいるだけで、それだけでよかったんだよ」
「そばにいるだけで…」
「あはは…、まぁ部外者が何を言ってるんだって話だけど、少なくとも何もできなかったは違うと思うよ、それだけはわかる、……まぁ帰れそうになったら呼んで」
そう言ってルカは外に出る
そして海の方ではなく森の方に歩いていく、その足取りはいつもより少し重たい
「熱ッ…!……柄にもないことしたなぁ〜」
地面に倒れ込んで木にもたれかかる、右足の太ももと右手の袖に血のシミができる
(使いすぎか…?、昔はこんなことなかったのに…)
最初に気づいたのはミリーらと別れてから、魔道具を見定めてたら右眼が異質な熱を帯びたことがきっかけだ、それから眼帯は着けていない、血で汚れると面倒だからだ
「……詳しい人に聞かないとな」




