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龍と魔法がありふれたこの地にて  作者: クラムボンのおにぃちゃぁん
少年期 里編
6/36

episode6 

林檎の里はおおよそ100人、30世帯程度の規模の狭い集落だ、そして狭い集落というものは住民間の距離が近く噂話というものが意外と聞こえてくるのだ


「クド殿の御令息は大層優秀だそうで、剣の腕もさながら、勉学の方にも精通していて10歳という若さでもクド殿が書類仕事を任せるほどだそうだ」

「まだ正式な見習い団員ではないがすでに団員から高評価を受けているしな、里の未来は明るいな」


良い評価が聞こえるということは悪い評価というものも当然聞こえてくる


「いや一概にそうとは言えないぞ、里長のところのやつは横柄な態度に加えてそれに見合う実力もない、いっそ息子ではなく娘であったのならクド殿の所の御令息と婚約させてより一層里のつながりを強固なものにできたものの…」

「何をやらせても一番になれない、そのくせ人に迷惑をかける、あいつじゃなくて女が生まれていたのなら、…本当に言えてるな!」


(聞こえてるんだよ!この寿命を日々の繰り返しで浪費してるだけのカスが!!)


下卑た笑いが響く、里の中ではなく少し山を登って集落を外れたところで酒を飲みながら言っているのもムカつく、しかし昔から聞き慣れたことだからもう怒りよりも疲れが勝ってきた


(はぁ…、稽古を抜け出してきた先でこんな不快なことを聞かされるとは…)


里長の孫で現自警団団長の息子であるレノ、自分に稽古をつける父の「なぜできない!!」「お前は本当に…」という聞き飽きた言葉に飽き飽きして稽古場を抜け出してきた矢先だったのだ。レノの同世代には優秀な者が多い、剣の腕なら里一番の剣士クドの一人息子ルカ、狩りなら遠征時に重宝される狩人クロリンの指導を受けているアキとミナトの双子、頭の良さなら里の歴史をまとめている一家の長女ユーリカ、魔術の腕ならシャルロットと一芸を持っているものがほとんどなのだ。長の一族であるレノはよく他人と比べられることが多い、そのためどの分野でも一番に慣れない劣等感というものを人一倍感じているのだ


(なにあいつらはムキになって頑張ってんだか…)


どこまで行っても里で二番目の剣の腕でしかない父、そしてそんな父に剣を習っている奴らのことを思い出しながらバカにする、今頃あいつらは必死になって剣を振ってるのだと、どれだけ頑張っても一番にはなれないというのに頑張っているのだというのに

少し気分はらしに歩いていると見慣れない顔を見かけた


(ん…?あれは…)


林檎の里には父の道場しか剣術を習う場所はない、アンサンブルクス家の剣術は一子相伝の技、そのため将来自警団に入りたいと思っている子供は父の道場で剣を習うしかないのだ、しかしあの子供は父の道場では見たことがない、少し気になってバレないように見学する


(………熱心だな、しかし誰だ…?)


見慣れない水色の髪色、記憶と照らし合わせていくとようやく合致する人物がいた、昔自分が魔女、化け物と罵っていた少年だ


「……!?女だったのか」


当時はフードをかぶって顔がよく見えなかったが今なら女だとわかる。しかしあの時の少年ならばきっとアンサンブルクス家に剣を習っているのだろう。そう考えているとふと何か感じるものがあった、

自然と目の前で剣を振っている少女に歩み寄る、するとこちらに気づいた様子を見せた、最初は一瞬怯えを見せたのだがすぐになぜか手首に巻いてあるバンダナを強く握り声を絞り出した


「……!?………も、もういじめられてたボクじゃないぞ!!」


そんなことを気にせずレノは自分が聞きたいことだけを聞く


「なぜそんなに頑張るんだ?」

「……?どういう…」


質問の意図が読めないシャルロットは警戒心を解かずに問い返す、そしてそんな言葉をレノは遮って再度問いかける


「アンサンブルクス家で剣を教わるお前はあの一人息子との差はいやでもわかるだろ、そしてお前はどう頑張ってもあいつには追いつけない、それなのになぜそんなに熱心に頑張るんだ?」


レノは自分を目の前の少女に重ねた、多少の差異があろうと状況は似たようなものだ、自分の上位互換が目の前にずっといてどうしてやる気を失わずに続けれるのだろうかと、知りたいのだ、何を思って頑張れるのか、それとも何も考えていない楽観的な思考なのか


「確かにお前と同じ存在はいない、けれどお前の上位互換はたくさんいるのだ、それは俺も同じこと、それなのになぜ続けるんだ?」


ようやく質問の意図を理解できたシャルロット、けど質問の意図は理解できてもやっぱり不思議そうに返してきた


「……?自分よりもすごい人がいるからってどうしてやっちゃいけない理由になるの?他人と比べて自分の価値を評価するなんて考えが出てくるのが他人を見下す上下関係に縛られた人間の思考なんだよ、ボクは全体の一番じゃなくて誰かの一番になりたいだ、…まぁそれが君の答えになるかは知らないけど…」


レノの中でシャルロットの言葉が反芻する、他人を見下す上下関係に縛られた人間と、そして何か胸の奥がスッとした感覚が走った


「おい!…昔のこ……」

「あ!ルカが帰ってきた!!ほらさっさとどっかに行ってよ!!」


レノの言葉を遮ってシャルロットが木刀をレノに突き出す、有無を言わせぬその力強さにレノは何も言えなくなって言葉に従い来た道を戻っていく


(…………)


誰かの一番になりたい、あれは俺の頑張る理由にはならない、あれはきっとあいつの頑張る理由だ、なら俺の頑張る理由は?、考えても答えは出ない


(まぁそんな簡単に出たら悩まないか…)


ならひとまず自分の過去を克服しよう、今までの悪しき自分にさよならを告げよう、考えるのはそれからだ、それまではがむしゃらに頑張ろう

レノは稽古場ではなくとある人物がいるであろう場所に向かった


「ん?…!?おぉ!ここに来るのは珍しいな、坊主。またサボりか?」


村の外で冒険者をやっていた中年のおじさん、小さい頃から自分にちょくちょく冒険譚を聞かせてくれたりお菓子をくれたりした人だ


「アレクさん…俺戦士の儀で絶対に勝ちたい奴がいるんだ、だから俺に戦い方を教えてくれないか?…いや、教えてください!」

「お、おぉ…、お前さんが頭を下げるほどか…いいぜ、そこまでいうならやってやるよ」


今までの横柄な態度を取り続けるレノとは違う雰囲気を感じたアレク、少し成長したレノに嬉しく思ったのだった


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