episode56
帝国行きの予定が決まったとレオから連絡が来た
病気を治療できる能力を持つレオが国から出る際にはリリー大聖堂の許可が必要になる、申請して大司祭の許可が降りるのを待つ、なんとも不自由な暮らしをしていると思ってしまうのは無理はないだろう
当然時間がかかる、ましてや王国と同程度の技術力を持つ帝国にだ、許可をもらうのは苦労するかもしれないと言われていたがそんなレオの心配は杞憂に終わった
「帝国行きは明日に決まった、本来だったら私には騎士が護衛につくのだが…」
そう言いルカの顔を見て笑うレオ
「今回の件を政治的な駆け引きには使いたくないのだろ?」
「良い顔したいからね」
「私もだ、人を助けるときにそんなややこしいことは考えたくない」
銀翼魔術師団の隊長さんは確か不祥事になるから今皇女様がかかっている病気の病名は表沙汰にできないみたいな話だったはず
政治的な話はよくわからないからなんともいえないが隊長さんは国を通しては無理だから私的に僕に頼んだって認識でいいのだろう
「あ、そういえば……」
ルカが思い出したかのように懐に手を入れる
金属特有の響く音を鳴らしながら机の上に置かれたそれは真っ白なことが特徴の真珠銀で作られた杖の形をしたアクセサリーだった
「隊長さんが話が上手くいって帝国にこれるのならこれを帝都で守衛に見せろって言って渡されたやつ」
「……帝国の徽章などには詳しくないがおそらく銀翼魔術師団の団員証だろう、帝都に入ってからどうしようと悩んでいたが気を利かしてもらったおかげで助かった」
レオを悩ましていることが一つ減った
ルカの口からは詳しく聞いていないがおそらく今回治療する相手は帝国貴族、それもかなり高位の爵位の貴族だろうと予想している、そんな相手にどうやってコンタクトを取ろうと悩んでいたのだ
「……帝都か、……ルカ、次からはもう少し報連相を徹底してくれ」
「あれ?言ってなかったけ…」
初めて正確な行き先を口にしたルカにレオは呆れる
てっきり病気の療養のために自然が豊かな田舎の方の地域に患者がいると思っていたのだ、田舎と違い帝都に向かうのなら気持ちの準備が必要なのだ
ーー
「……?…そうですか、帝国に向かうのですか」
魔導士の男…キューベルが水晶に向かって話しかけている、その横には赤い鎧を着た騎士が鎮座している
「えぇ、わかりました、その調子で頑張ってください」
役目を終えた水晶がどろりと溶けてキューベルの影の中に流れ込んでいく
そして立ち上がって騎士の頭に手を置く、すると今までまるで人形のように動かなかった騎士ロビンの目に光が戻る、しかし光が戻ったとはいえその目には恐怖が浮かんでいる
「や、やめ…、––あ゛あ゛ぁ゛!」
「こちらの進捗ももう少しですね、」
キューベルがロビンの口を無理やり開き自分の血を流し込んでいく
口から流れ込んだ血がロビンの心臓を高く打ち鳴らす、鼓動が早まり視界が真っ赤に染まる、激痛と自分が自分でなくなっていく感覚に何もできずにただ声を上げることしかできないでいる
「あの眼帯の少年…、凄まじい剣圧でしたね、殺人技術がピカイチでした、特に最後の抜刀術、目では追えましたが反応できませんでしたね、しかしミリーという男の方は…そこまで魅力を感じませんでしたね」
先の戦いのことを思い出したが少々その評価は酷かもしれない
眼帯の少年の剣術は切断に特化していた、だから自分を殺せた、
しかしミリーの方はそうではなかった、凄まじい闘気の練度だったが自分よりも力が弱かったような気がする、それなのに力勝負を挑んできたのだから一度も自分を殺せいのは納得だ、相性が悪かった、そう表現するのが正しいような気がする
「まぁ赤髪の方は名前を把握しています、影を私が援護すれば簡単に殺せるでしょう、貴方の仕事はあの眼帯の少年を殺すこと、…そのためにはしっかりと心を殺さないといけませんね?」
「––あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!」
乾いた血の感触がする声が森に響く、どんどんと人として自分を構成していたナニカが失われていくのを確かに感じてる
「次の襲撃は……帝都に入る前ですね、そういえばあそこのあたりにちょうど良い場所があったはずです」




