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龍と魔法がありふれたこの地にて  作者: クラムボンのおにぃちゃぁん
少年期 里編
5/36

episode5

風が吹く、強風が、そして少しずつその風が規則性、指向性を帯び、そしてシャルロットの体が中に浮く


「おぉ〜!!」

「えへへ、初級風魔術、『風域』と『気流』の合わせた中級魔術『浮遊』だよ」


アンサンブルクス家はルーツを辿れば貴族、騎士の家系だ、そのため希少性がまぁまぁな魔導書程度ならそこそこの数が蔵書室で眠っている、その誰も使っていないあってもなくても変わらないような魔導書をいざ有効活用しようとシャルロットに見せてみたところ一桁台の試行回数で中級魔術を成功させたのだ


「風魔術で空を飛べるのか……、良いもの見れたよ、ありがとう」

「こっちこそありがとう、風魔術の中級魔導書を読んだことなかったから、うへへ」


しかし空を飛べるのはかなり強い、剣士相手に一方的な高度から魔術を行使するだけで戦闘を有利に進めれるのだ、まぁ聞いた話中級魔術を行使しながら剣士を仕留めれるような強力な魔術を使うのは難かしいらしいけども


「空が飛べるってなると魔術の練習のモチベーションも上がるだろうなぁ…ん?モチベーション?」


もし数年前の自分が空を飛べるという目標をモチベーションに頑張っていたらなと思ってふと引っかかる、将来像がないからモチベーションが上がらない、モチベーションの維持は師匠の仕事だと思う、いい師は弟子のモチベーションをしっかり保って練習に精を出させる、僕も今広義の意味では師匠だ、シャルロットのモチベーションを保つために一つ技を見せてあげるべきではと思うのだ


(いや、あげるべきだな、うん、モチベーションのためだ、仕方ない)

「良いものを見せてあげるよ、うん、今のに負けないくらい良いのを、」


道場に飾ってある自分の真剣を持って裏山につながる山に行く、ちょうど人の胴体と同じ程度の太さの木の前に立って居合の構えを取る


「ウチの流派、夢想刻円流は後の先を獲るカウンターの剣、そしてこれはその終着点、間合いに入ったという()()をした相手を刀が鞘に納まった状態からの“抜き打ち”による動作によって斬る居合術、『刻円の術理』」


そう言って半身に構えたまま静寂が訪れる、ルカの集中が極限まで高まった瞬間、ルカは膝抜きによって予備動作なく力場を作りそしてそのまま重力に従うように、地面に倒れたとまで錯覚するほどの前傾姿勢で地を這った、そして木とすれ違った時にはすでに刀は抜かれている状態で木は水平に切られていたのだった


「え!?す、すごい!!全然見えなかった!」

「そりゃ見えたらダメだからね」


惜しみなく送られる拍手にルカは非常に気分が良くなる、そして気分が良くなったルカはすごく饒舌になる


「シャルロットもすぐにできるようになるよ、僕も剣を習い始めて二年くらいでできるようになったから、力じゃないよ、筋肉量は関係ない、けど父さんみたいに岩を切れるようになるのは多分僕でもあと三年はかかるな、イメージができないんだよね、斬れるイメージが、それにこれは稽古ってだけで強さに直接関係しないから、あ、あと僕がこれを見せたの父さんに言ったらだめだよ?」

「なんで?」


すごく饒舌なルカ、けれど何かを思い出したかのようにシャルロットに釘を刺す


「普段は情けないくせして父さんはすごく基礎を大事にする人なんだ、だから基礎基礎って言って僕が『刻円の術理』を使うのを禁じてるんだよ、まぁ確かに基礎は大事だけど今回は特別、モチベーションの維持は大事だからね」


もちろん彼女を口実にして父から唯一禁止されてると言って良いルールを破った、けどこれは彼女のモチベーションを保つためだ、ちゃんとした理由がある


「ていうか父さんもその実直さの1mでも母さんに向ければ良いのにね、記念日忘れたり酔って怒らしたり、そういうところの器用さと頭の良さが足りてないんだよ」

「る、ルカ……」


日頃の鬱憤を吐き出しているとシャルロットが半泣きになっている、そして自分の視界が影で覆われていることに気づく。まさかと思ってアイコンタクトをシャルロットに送ると首が取れるのではないかと思うほど縦にブンブンと振り返してきた


「誰の頭が足りてないって?」

「あ、なんで……?」


振り向くとお酒を飲んだ時みたいに顔を真っ赤にして怒っている父の顔がすぐそこにあった、咄嗟に逃げようとするも首根っこを掴まれて体の自由を奪われた


「お父様…、どうしてここに…?遠征で帰ってくるのは明後日のはずでは?」

「お父様は優秀でね、期日よりも早く仕事をこなしたから早く帰れることになったんだ、で帰ってきたらどうやらバカ息子が禁を破っていた上に陰口ときた…、覚悟はいいな…?」


直後笑えないレベルの拳骨がルカの頭上に炸裂、女の子の前だったからギャーギャー叱ることをしなかったのは父の優しさだったのか、真相はクドにしかわからない


ーー

シャルロットが魔術で作った氷を水と一緒に皮袋に入れて頭を冷やしてくれる


「痛ッ!」

「だ、大丈夫…?」

「ありがとうシャルロット」

「えへへ、早速役に立ったね、魔導書の魔術」


そういって自慢げに見せてくるのはさっき僕が渡した魔導書に書かれていた水の初級魔術、効果は僕が実演した通りでたんこぶを冷やせるレベルの実用性は確認されている、そしてこれは攻撃魔術なのでかなりの応用性があることも確実だ


「……そういえばどうしてバンダナで右目を隠してるの?」

「あっちゃ〜、聞くか、聞いちゃうかぁ〜」

「え!?ごめん、ダメだった…?」


自分としてすでに一ヶ月程度たってようやくその話題に触れるのかという感じのノリだったのだが結構ガチトーンで返されたため訂正しておく


「冗談」

「!?、むぅ〜!!!」

「はは、ごめんって」


肩をぐいぐいと押して怒りをアピールしてくるシャルロットを宥めつつルカはバンダナを外す、顕になったのは紫色の瞳、左眼は髪色と同じ灰色なのに右目は異様なまでに紫だ


「魔力視の魔眼、極めつき僕のやつは特別製で魔力を込めないと仕事しない」

「え?仕事しないって…」

「そう、魔力を込めないとまずまず見えないんだよ、だから普段はこうやってる」


飛んだ不良品である、魔力を込めていない間は何も見えない、本当に真っ暗なのだ、そしてずっと魔力を込めているわけにはいかない、至る所に魔力の流れは存在している、それをずっと認識していると脳に強い負荷がかかっていわゆる魔力酔いになってしまうのだ


「まぁ僕以外の人も普段は魔力酔いを避けるために眼帯して隠しているみたいだから普段から見えてたとしても多分今とあんまり変わらないよ」

「へぇ〜、大変だね」


全く持ってその通りである、絶対魔眼じゃない方が便利だ、けどまぁこれもなかなか気に入っている、自分だけが見える景色というものはなかなかに悦に浸れる要素なのだ


「……何してるの?」


僕が久しぶりに魔眼を使って幻想的な景色を楽しんでいたのだが、もう良いかなと思ってバンダナを巻こうとしたら僕のバンダナをシャルロットが巻いて遊んでいた


「普段こんな感じなんだなって、えへへ」

「そうだよ、えへへ」


結局返してくれたのは十分後だった

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