episode48 裏の裏の裏のウラ
とある日の出来事だった
祖国から離れた学園に通い、友人と少しの使用人と共に確かに楽しく、けれど貴族として相応しく学んでいた
しかしそんな生活に終わりが突然来た
私には聖女としての力が備わっている、聖女と言っても女ということではなくありとあらゆる病気を治す力だ、そしてその力を頼りに本国から帰還命令が出た
第ニ王女が不治の病にかかったらしい、私もこの力を持って生まれたものとして、貴族として、そして一人の紳士として、女性が苦しむことを許せる自分ではなかった
侍女と共に一緒に本国へ急いで帰路に着いた時、私は襲われた
おそらく帝国の命を受けたものだろう、第二王女の母は帝国皇室に嫁入りした王女だ、もし彼女の命が失われた場合、王国と帝国の友好の印である第二王女殿下が失われた場合戦争が始まるだろう
そして第二王女殿下が亡くなられて利があるのは帝国だ
親しかった侍女を失い何もかもどうでも良くなり、しかし祖国に戻り戦争を起こさせないためになんとしてでも祖国に戻らなくてはならず、最終的に流れ着いたのが港町アセトだった
そこで出会った冒険者、騎士や国家認定魔術師よりも冒険者が強いと語りながら勝手に私の髪を染めたりする男や下世話な話が大好きな男たち、多分私の緊張をほぐすためにやっていたのだろうが恥ずかしさが勝ってしまったが
そして私が冒険者となじめるように気を利かした魔術師の女性、そして何よりも態度の悪い自分にそれでもと接してくれた冒険者たち
正直最初は疑っていたし特にルカなんて嫌いだった、面倒で余裕のない時にからかってくるなんて最悪だった、しかしあの帝国の雪乙女相手にここまで綺麗に魅せてもらった何もいうことがない
草原を走る、風を切る音が聞こえてどこか涼しく感じる、中途半端な色になった青の髪を眺める
鈴が鳴る、後ろからいくつもの風を切る音が聞こえる
目の前が魔術で塞がれてそろそろいいかと思い後ろに振り向く
「武器がないのはわかっている、抵抗しないなら丁重に扱うぞ、レオン・エンジムート、少し貴方の力を借りたいだけなのだ」
馬車でミリーが話していた黒曜族の特徴と一致する容姿の魔術師が自分の前に降り立った
「レオン・エンジムート?ははは!!僕の名前はルカ・アンサンブルクスだよ、君の名前を教えてくれるか?」
レオの髪を染めた木の実と同じもので青に染めた髪に水をかけて軽く洗い流す、そして胸に刺していた『春歌』を抜き鞘にしまう
斬れないと思った時は霊体化し、実体に影響を与えれなくなる、それの応用で他人に体に刺して見えないようにしまっておいたのだ
「……そういうことか、完全にやられた、裏の裏の裏のウラだったか」
ようやく状況を理解したらしいエアにルカは笑う、確実に読み勝ったのだと
(多分あいつならこういうだろう)
(これであいつも認めるだろうな)
“冒険者は近衞騎士や国家認定魔術師よりも強い”
「「強さと一口に言っても星の数ほど種類がある、君達国家認定魔術師の中でラプーの実で髪を青く染めれることを、虹鏡蜻の羽で目の色を変える魔道具を作れることを知っている者はどれくらいいる?」」
僕は高らかに種明かしをする、念の為に入れいてたカラコンを外して眼帯をつける
「…こちらにつかないか?今から貴方を倒して彼らに追いつくのは難しい」
「すまないね、お金は大事なんだ」
お金は大事だ、お金大好き人間の僕から言わしてもらうとお金に勝るものはないと思っている
「そちらの達成報酬の倍だそう」
「3億リリー?」
「……あぁ、3億リリーだ」
突然の裏切り行為のお誘い、適当に3億という頭の悪い金額を提示すると少し悩んだがほとんど即決で了承したのに驚く
しかしだ
「前言撤回、信用の大事かも」
「そうか、残念だ、……撃ち抜け」
エアが右手を挙げ、攻撃実行のサインを出すのとほとんどノータイムで後ろで待機していた魔術師18名からの一斉攻撃が始まる
ルカはそれをいなしながらスクロールを取り出した
「––ッ!?スクロールを展開させるな!!」
エアが部下にも指示を出しながら自分でも氷結魔術で腕を凍らすがルカが意地でスクロールを展開する
スクロールに仕込まれていたのは林檎の里の結界を基本としたルカのオリジナル結界
その効果は基本的な外からの侵入を防ぐ結界術ではなく中からの脱出を防ぐ大規模な結界術
そしてその真価は少数精鋭の敵を一点に集め中に閉じ込めた際に発揮する、まさに今のような状況だ
「やられた!」
エアが焦る、それもレオが魔導列車に乗った時以上に
結界の破壊は大量の魔力を消費する、解析による突破でもエアほど優秀な魔術師だとしても大規模結界の解析には最速で6時間
前者の場合エアの膨大な魔力量を持ってしてもここからレオたちに追いつくための飛行魔術の魔力が足りなくなる、ただでさえ燃費の悪い飛行魔術を長時間行使した後なのだ、もし追いつけたとしても赤髪の剣士を相手どりながらレオンを捕縛する余裕は確実にない
そして後者の場合目の前の眼帯の剣士を相手取りながら結界の解析を行わなければならない、確実に6時間以内には終わらない、そこまで時間があればレオンらはカフェでゆっくりしたとしても優雅に王都に入れる
(そもそも剣士がこの規模の結界術をスクロールを利用したとしても行使できるとは思わなかった!)
氷の割れる音と共に鈴が鳴る
エアの計算では飛行魔術でならレオンらに12時間で追いつく、そしてレオンらの移動速度であれば王国領に入るのはおおよそ15時間後、つまり制限時間は後3時間
残ったのは第三の選択肢、結界内に森すら含まれているこのフィールドで無詠唱での氷結魔術を使っても致命傷を与えられないこの術者の息の根3時間以内に止めないといけないのだ
「さて、本格的な鬼ごっこを始めよう」
目の前の剣士の言動が自分と重なる部分があり性格が似ているのだろうかと場違いな考えが浮かぶ、武具屋の時から逃げる側と追う側、同じ立ち位置だが状況が全くの真逆だ
(意地の悪い笑顔をしてくれるな…)
「じゃ、僕は本気で逃げるから」
そう言い残すと眼帯の男は姿を消した




