episode45 綺麗な人
キリズの街、別名冒険者の街とまで言われており武具、食料、魔導書などの需要量が他の街と比べて圧倒的なまでに大きく、迷宮での魔物の素材から発掘品などの特産品など多く存在しており経済が盛んな街だ
「んじゃ、僕はここで」
「夜には必ず帰ってこいよ、俺らはここで待っとくから」
宿を2日分予約してから街に繰り出す、僕の狙いは迷宮産の刀、もしくはここで活動している冒険者をターゲットにし持ち込まれた名刀だ
予算は青天井、まぁ街で売っているような武具はせいぜい4000万リリー前後だろう
とりあえず街をぶらつきながら武具屋を探す、当然その間も耳を澄ませながら情報を集めていく、街角のパン屋の主人がタチの悪い流行り風邪にかかっただの、どこどこの娘さんがおめでただの、なんてことない会話だが一応聞いておく
「最近ギルドに人探しの依頼が追加されたらしいな、なんか金髪でだいたい中背くらいの男らしい、帝国のお偉いさんらしく誘拐された可能性があるとか」
「あぁ俺も知ってるぞ、見つけたら近くの帝国兵に言うんだろ、それだけで成否を問わずに5万リリーって」
(……人海戦術か、けどいい情報だ、髪を染めたことはバレていないらしい)
金は基本的に貴族の色だ、たまに平民でも金髪がいるがあれは貴族の血が流れているだけで絶対数が少ない、金髪の中背くらいの男ってだけでもかなりの数が絞れる
有益な情報を一つ手に入れたことを喜んでいるとようやく武具屋が見つかった
「いらっしゃいませ!」
「こんにちわぁ〜」
中に入ると土鉱族の男が迎えてくれた、工房と一体の店なのだろう、店の奥からは鉄を打つ音が木霊している
店番をしている若い土鉱族の男がおずおずとカウンターから出てきた
「本日はどういったご用件で?調整した武具の受け取りでしょうか?それとも武具の新調でしょうか?」
なかなかにグイグイくる店番の男、僕がアセトの街で使っていた武具屋は基本的に店主はカウンターから出て来ず勝手に客に選ばせるというスタンスだったから少し戸惑いが勝つ
「武器の新調を、刀…これと同じ種類のものはあるか?」
「……!あぁ、極東の武器ですね、このあたりでは珍しいですが当店で扱っております、どうぞこちらに」
無数に飾られている武具の中、男の後ろについていく
しかしなかなかにこの土鉱族の男はおしゃべりだ、土鉱族は寡黙な男ばかりだと思っていし寡黙な男にしか会ったことがないため違和感がすごい
「どうでしょうか?」
「……並、どれも悪くないけど…量産品の域を出ないなぁ…」
口ではかなりマイルドに濁しているが微妙だ、これだったら今のものを使った方が…いやそれはないが微妙なのは間違いない
「……これだけ?だったら申し訳ないけど…」
「–––後一品、迷宮産の物がございます、しかし少々癖の強いものとなっていまして…」
諦めて店を出ようと思った瞬間、僕の言葉に食い気味店番の男が被せてき、迷宮産の物と言った、大本命だ
少しテンションが上がりながら店の奥に最後の一振りを取りに行った店番の男から受け取る
「こちら銘は『春歌』いわゆる魔剣に分類されるものとなっております」
「……なんでそんなものがまだ売れていないんだ?」
魔剣は特別な力を刻まれた武器、それは持ち主の能力をデメリットなしに飛躍的に向上させる、そのため基本的に貴族が自分の武力を強化するために購入するので滅多にお目にかかれない品物だ
こんなと言ったら失礼だがこんな武具屋に置かれていること自体がおかしい
「この魔剣の能力が問題なのです」
「……どんな?」
聞き返すと店番は春歌を抜いた、そしてすぐそこにあった鎧を袈裟方向に切り裂いた、それも綺麗にだ
「切れると思ったものを切れるというものです」
「……強くないか?」
「いえ、ここからが問題です」
そういうと店の端で座っていた猫に向かって刀を振り下ろした
止めようとしたが間に合わなく、猫がどうなったか見るまでもなく店番を非難する
「何をしている!?」
「見てください」
「見てくださいって何を……」
視線を店番から猫の方に移すと刀が猫の体にしっかりと食い込んでいるのが見える、しかし猫の体からは血が流れておらず痛がる様子もない
そして僕らの視線に気付いた猫は不機嫌そうに立ち上がって店の奥に消えていった
「私には猫を斬るイメージが全くできません、そういうことです、斬れると思ったものは斬れる、しかし少しでも斬れないかもと思った瞬間刀身が霊体化しすり抜けます」
そう言いながら店番は鞘に刀をしまった、確かにこれは癖のある尖った能力だ、メリットも大きいがデメリットが大きすぎる、一瞬でも斬れないかもと自分を疑った瞬間斬れなくなるのだ、自分のイメージ次第、強くもあり弱くもある
しかし非常に面白い能力だ、それくらいピーキーな方が僕に似合っている気がする
春歌を軽く振って具合を確かめてからポケットから財布を取り出す
「いくら?」
「一度売り戻されているので2000万リリーでございます」
「買った!」
料金を支払い店番と固く握手をしてから店を出ようと扉に近づく
しかし僕が手を伸ばす前に扉が開き外から人が入ってきた
純白の軍服を身に纏った二人組がだ
「隊長!武具屋よりもあっちの魔道具店行きましょうよ〜!」
「あとでな、私は武器を見るのも武器を見定める戦士を見るのも好きなんだよ…ん?あぁ、すまないな」
軍帽に刻まれた銀の翼、実物を見たことなくてもわかる、銀翼魔術師団だ、それも隊長格、魔眼を使わなくてもわかる、ロララ並みの魔力量だ
(……やばい、すごいタイプかもしれないな…)
隊長と呼ばれた僕と同じくらいの背の女性、なんかこう守りたくなるようなボーイッシュな可愛さだ、もし軍服を着ていなかったらお茶に誘うレベルの
まぁそんな馬鹿なことを考えずに僕はできるだけ自然に立ち振る舞う
「おっと、すみません、怪我はないでしょうか?」
「あぁ、大丈夫だ、私こそすまない……いい買い物ができたのか?」
「はい、今日は運がいい日ですね、良い物が変えた上にあなたみたいな綺麗な人にも会えました、少し後ろ髪をひかれますが私はこれで、縁があればまた会いましょう」
そう言ってなるべく笑顔でその場を立ち去ろうとするルカ
しかし背を向けて歩き出そうとした瞬間魔力が跳ねたのを背に感じ振り向く
「君は冒険者だろ?ランクは?」
「まだまだ未熟なもので、あまり人様に自慢できるランクでは…」
「––いいから!」
連れの方の魔術師がルカにキレる
それを聞いたルカも観念して冒険者証を見せる
「…Cランクです、では私はこれで」
「クフッ!、…また会おう」
「えぇ、縁がありましたら」
そう言って今度こそ別れ、通りの角まで歩いて行ったルカの背中を二人が見送る
そして隊長と呼ばれた魔術師がルカの特徴をメモに書いてから隣にいた魔術師に渡す
「……今の男を調べろ」
「え?至って普通でしたが…」
そう返されると隊長と呼ばれた魔術師が笑いながら隣の魔術師に言い返した
「仕事中の私の魔力を感じた上に威嚇までしたのに平然と綺麗な女と言った男だぞ?Cランクなわけあるか、ランクを偽っているのは確実だ、そしてここまでレオン・エンジムートは一度も見つかっていない、今までBランク以上の冒険者の行動に着目していたが、ランクを偽装するのは思いつかなかったな、…そうか、してやられたよ」
銀翼魔術師団一番隊隊長『雪乙女』エア・ロードライクは笑う、一本取られたと、しかしその笑いは何も自暴自棄になっての笑いではない、大人が子供とチェスをする際にまさかそんなことをするなんて成長したなという笑いに近いものである
そしてエアはチェスという実力が顕著に出るゲームで大人が子供に負けると思っていない
「捜索依頼に金髪という情報を外せ、その代わりに碧眼という情報を入れろ、何があっても眼の色なら変わっていないはずだ」
「了解です」
仲間が待機してる宿に全力で駆け込む
部屋の中には僕以外の全員が集まってご飯を食べており僕の顔を見て何事かと驚いている
「街に銀翼がいた!まだ確信には至っていないはずだがバレるのは時間の問題だ!」
「––ッ!?数は!?」
「目視でニ、実力は聞かないでくれ、アンズが泣くから!」
「うるさいわね!」
全員荷物を最低限しか崩しておらずすぐに宿を出ることはできたのだった




